〜「絵本を見る」〜

　　僕は絵本を見ると、絵をあらゆる角度から見たくなります。本を逆さにしたり、

　目の高さまで持ち上げたりして、ながめるのです。視点を変えると、絵はまったく

　違う表情を僕に見せてくれます。絵本を動かすだけで、ストーリーとは別の世界が、

　僕の頭の中に広がるのです。絵本の意味がわからなかった頃、僕はこんなふうに絵

　本を楽しんでいました。

　　写真を見る時も同じです。くるくる回したり、カードのように何枚も重ねてめく

　ったりしていました。写真の中の僕はいつも笑っていたので、写真を見るとうれし

　くなりました。その様子を見ていた母は、この写真で絵本を作れば、僕が絵だけで

　はなくストーリーにも興味を示すのではないかと考えたようです。

　　　　　　　　○

　この絵本の見え方は、自閉症の＜過剰特異性＞の見え方と、よく対応している。

　絵本の絵を、「全体の絵」としては見えていない。

　細部に焦点が合う見え方のために、同じ絵なのに、角度を変えるだけで、まったく違った絵に

見えている。

　こういうことを、ちゃんと書いているのは、当事者の記述でも珍しいと思う。

（この項、了）