〜顔認識と匂い〜

　　私は、二〜三カ月に一回くらいの頻度で、夫の顔がわからなくなることがありま

　す。結婚した当初、散髪屋に行って、いつもと様子が違う夫が帰宅すると、「見知

　らぬ人が勝手に家に入ってきて鍵までかけている」と通報しかけたほど、まったく

　知らない他人だと認識してしまいました。夫からは大げさだと言われましたが、実

　際に私は夫を認識することができず、本当に恐怖を感じていたのです。

　　このように、他人の表情や顔の認識が難しい人や、人の顔が覚えられない人がい

　ます。毎日会っている人なのに、服装が違うだけで同じ人だと認識できなくなって

　しまうこともあります。

　　私は、相手のことを認識するために、顔や表情以外で相手を見分けるようにして

　います。着ていた服を見て思い出したり、嗅覚の過敏さを利用してにおいで思い出

　したり、帰宅時間や会う時間で把握したり、足音や鍵を開ける音などで認識してい

　ます。

　　　　　　　　○

　「顔認識」についての記述があったので、書きとめておく。

　僕のざっとした記憶では、グニラ・ガーランド、森永奈緒美、泉流星さん、等などが書きとめ

ておられたと思う。

　この人も、相当に「顔認識」が難しい人のようだ。

　夫の顔が、二〜三か月に一回の割合で、わからなくなるとは（！）。

　その代わりに、佐々木加奈さんは、においや、来ている服で、その人を記憶していると言う。

　また、その人であるかどうか、帰宅時間や会う時間、足音や鍵を開ける音で認識している、と

いうのも興味深い。なるほど。そういう見分け方もあるのか（！）。

　重度の、言葉のない自閉っ子の中には、鼻をクンクンさせて、先生のにおいを嗅いでいる子が

いる。そういう子たちも、「顔認識」よりも、嗅覚の方が、信頼できる感覚なのだろう。

　僕の娘は、幼稚園の頃、幼稚園では、誰ともしゃべらなかったので、「場面緘黙」じゃない

か、と園長さんから心配されていた。

　だが、高校生になって聞いてみると、幼稚園の頃は、人の顔がわからなかった、と言って

いた。

　実は僕も、「人の顔を覚える」のは苦手だ（まったくわからないというほどではない）。

　どうやら、娘も、小さい頃は、そうだったらしい。

　顔が誰だかわからないと、話すのは、難しかっただろう。

　たぶん、着ている服とかで、見分けをしていたのだろうと思った。

（この項、了）