〜さかもと未明の特徴（2）〜

　「これを飲んでよくなるようでしたら、間違いなく発達障害です。あなたは脳の報

　酬系が器質的に弱かった。ドーパミンなどの代謝が少ないということです。それで、

　ふつうの人なら感じる幸福感やふつうの欲求が感じられず、うつなどになった。た

　いへんだったね。でも見つかってよかった。これからは、あなたに必要な薬や生き

　方を探していけますからね」

　　そう言われたとき、私はまだ自分が受けた診断に半信半疑だった。けれど、それ

　が「間違いない」と確信できたのは、コンサータを飲んで気分が上向いたからだ。

　　星野先生を訪ねたころの私は、うつと膠原病の悪化で、ほとんど歩くこともでき

　ないような状態だった。自宅のドアから病院のドアまでタクシーで移動するのがや

　っと。待合室でもソファに寝そべったりベッドに案内してもらったりするような始

　末。ちょっとしたおつかいで歩くこともままならなかった。膠原病のほうはステロ

　イドなどを処方してもらっていたし、デパスやパキシルなど精神の薬も飲んでいた。

　でも少しも気持ちはラクにならなかったし、体も痛くて、だるくて、動かなかった。

　　それが、コンサータを飲んで十五分もしないうちに、急に気持ちが上向き、体も

　ラクになって、「病院から駅まで歩いてみようか」という気持ちになったのだ。そ

　んなことは、ほんとうに久しぶりだった。

　「思春期から悩んできたあのどうにもならない虚無感は、病気のせいだったんだ。

　体が疲れて、タバコやお酒に頼らないと仕事ができなかったのも。生きづらく感じ

　たのも、甘えじゃなかった。両親とうまくいかなくて、ずっと悩んできたことも、

　私のわがままが原因じゃなかったんだ」

　　そう思ったとき、体だけでなく、気持ちがどれほどラクになったかしれない。親

　との確執についても、「あなたのせいじゃない。お父さんやお母さんのせいでもな

　い。病気が原因です」と、星野先生に言ってもらって涙が止まらなかった。うまく

　いかなくて死ぬほど悩んできたことが、まさか先天的な障害のせいだなんて、想像

　もしなかった。それと認めてもらい、自分も理解することで、こんなラクになるな

　んて−−。

　　　　　　　　　○

　「診断」とコンサータが、劇的に効いた例として書きとめておきたい。

　僕自身は、コンサータがまったく効かなくて、かえって状態が酷くなった子（生徒）しか見た

ことがなかったので、こんなに劇的に効くものだとは知らなかった。もちろん、個人差があるだ

ろうが、さかもと未明にとって、良かったことは疑いない。

　さかもと未明は、父親も「アルコール依存」があり、母親も「子どもに愛情を感じられないタ

イプ」の人であり、小さい時から、相当に苦労してきている。

　発達障害の「診断」とコンサータで、それが変わるなら、とても良いことだ。

　自分の変えられない「暗い宿命」のように感じられていた人生が、将来に向けて、自分でコン

トロールでき、自分の意思で「変えられるかもしれない未知」に転化することができるように

なったからだ。　

（この項、了）