〜ＬＤと脳内視力セミナー〜

　　ウッシーヤは本を読むと、すごくたどたどしいうえに単語を飛ばして読んだり、

　書かれていないことを勝手に読んだり。低学年のうちは、私もなんとか忍耐強くつ

　きっきりで一緒に読んでいましたが、一行読むのに数分間もかかることがしばしば

　でした。

　　文字を書くと、蛇行どころか、ジグザグに書いたり、渦巻き状にぐるぐる回転さ

　せながら書いたりして、まるっきりまっすぐ書けません。文字にも数字にも、顔が

　ついて、手足や羽がついているような、まるで絵のような不思議な字を書いていま

　した。

　　何度注意しても止めないし、本人の様子を見ても決して悪ふざけをしているわけ

　ではないようなのですが、これでは勉強になりません。

　　かといって、知能テストをしても特に問題は見当たらず、学校や家庭でも、結局

　本人のやる気の問題では、ということになっていました。

　　妻ワッシーナの努力は、涙ぐましいものがありました。毎日、朝と夕の送迎の車

　中で、教科書の音読や、かけ算・九九の練習、四字熟語の暗唱などを行い、ときに

　は宿題や家庭学習でも、つきっきりで深夜までかけて教えました。ウッシーヤは人

　一倍読み書きに時間がかかるうえに、間違いが多く何度もやり直すので、一般的な

　宿題の量でも、何倍も時間がかかるのです。仕事と家事、子育てを一手に担うワッ

　シーナには、とても大きな負担だったはずです。

　　ところが、ある教育専門家の検査と問診を受け「発達障がいの可能性が高い」と

　指摘され、私たち夫婦は目からウロコが落ちたような感覚になりました。それまで

　不可解だったウッシーヤの読み書きの問題、集団遊びが苦手なところ、極端に水を

　怖がる感覚過敏、やりとりの不器用さ、すべてに説明がつき、すごく納得できたの

　です。

　　　　　　　　○

　　ある日、「脳内視力セミナー」というものを家族で受講しました。これは脳の中

　の視力を測る両眼視機能検査によって、読字・書字トラブルを解決するという画期

　的な内容でした。左右の目で捉えた像が、脳内でずれて見えてしまっているために、

　文字がしっかり読みとれなかったり、見えづらかったりという症状を抱えた人がい

　るのだそうです。この検査では、そのずれ具合を測ることができるというのです。

　ずれを矯正する特殊レンズのメガネをかければ、文字が見えやすくなるということ

　でした。

　　セミナーでは、家族全員で簡易式の検査を受けました。その結果、わが家は私を

　含めた全員が、ずれて見えていることが判明したのです。そして、日ごろパソコン

　などで目を酷使する仕事に従事している私だけが、ひとまず特殊レンズのメガネを

　作りました。すると、驚いたことに、長年悩んでいた偏頭痛から解放されたのです。

　　読字・書字トラブルなどで勉強に集中しづらかったウッシーヤは、さまざまな工

　夫や情報のおかげなのか、高校生になったある日突然、勉強のスイッチが入りまし

　た。学校の先生が「奇跡的」と言うほどやる気がアップしたのです。ウッシーヤ本

　人も「初めて勉強がよく分かるようになった」と言うほどでした。

　　発達の気になる子にも、必ず、その子に合った学習方法があるのです。

　　　　　　　　　○

　ウッシーヤの書字の様子は、あきらかに読字障害・書字障害であるように見える。しかも、相

当な「重症」だ。

　「脳内視力セミナー」では、家族全員が左右の見え方がズレていたと言う。「特殊レンズ」の

メガネは、ドナ・ウィリアムズもかけていて、見え方が相当安定したらしい。

　それにしても、家族全員の見え方がズレていたということは、見え方のズレは、特殊なケース

ではなくて、誰でも大なり小なり、見え方のズレがあると考えた方がいいのかもしれない。

　ウッシーヤには、ひどい症状のＬＤがあったが、早期発見・診断され、お母さんとの努力の

日々があり、高校時代になると、突然、奇跡のように、勉強ができるようになったと言う。

　集中力が発揮できるようになり、「初めて勉強がよく分かるようになった」というところ

だろうか。

　「発達の気になる子にも、必ず、その子に合った学習方法があるのです。」というの

は、当事者や家族が勇気づけられる、とてもいい結論だと思う。

（この項、了）