〜福島原子力発電所の設計ミス〜

　　だからこそ、ある種の設計ミスをするエンジニアがいても、私は絶対にそういう

　ミスをしない。空間視覚思考をするエンジニアもいるが、私は物体視覚思考をする。

　だから、大惨事が発生する前に事故を頭の中で見ることができる。自動車のエアバ

　ッグで子どもが何人も死んだのは、エンジニアがまちがった指示−−バッグは、事

　故が発生したときに、シートベルトをはめていない成人を保護するべし−−に盲従

　したからだ。私だったら、ダミーを使った衝突テストを見れば、赤ちゃんがエアバ

　ッグの衝撃に耐えられない光景が、簡単に頭の中に見えただろう。二〇一一年に日

　本で津波が発生したときに、福島の原子力発電所でメルトダウン事故が起こったの

　は、防波壁を乗りこえた津波が主電源だけでなく予備電源にまで浸水したからだ。

　そして、予備電源はどこにあったのか。地下室−−海の隣にある原子力発電所の地

　下室だ。私は事故の解説をいくつも読んだときに、海水が発電所に流れこむところ

　が頭の中に思い浮かんで、緊急予備電源が水面下に姿を消すのが見えた（これも、

　私がコンサルタントとしてする仕事。事故を発生前に見通す）。

　　　　　　　　　○

　テンプル・グランディンは、福島の原子力発電所の事故の解説を読んでいると、実際に海水が

原子力発電所に流入するところが見え、緊急予備電源が水没する映像が、本当に「見えた」と言

う。素晴らしい視覚（映像）で考える能力だ。

　テンプル・グランディンのような視覚能力を持った自閉症の人は、たくさんいるに違いない。

　福島の原子力発電所も、もちろん、技術者が想定される状況での被害を考慮に入れて、設計は

されていたのだろう。

　もしも、テンプル・グランディンのような能力を持った人が、設計図を見ながら、不測の事態

のシミュレーションをしていれば、福島原子力発電所の設計ミスには簡単に気がついたかもしれ

ない。原発の設計に当たった人は、定型発達の、上からの指示を「盲従」する人たちばかりだっ

たのかもしれない。

　そういう才能を、適材適所に配置することができれば、もっといい社会になると思えるのだ

が、実際には、一部の人が、特殊な「おいしい」仕事を独占することになっているのが、現実な

のではないだろうか。

（この項、了）