〜給料は大事に〜

　　先日、あおの再就職が決まり、最初の給料日が来たというので、お祝いに行きつ

　けのバーに行こうとしたときのことです。

　○「バーに酒飲みに行こうぜー！」

　○「お金がないー」

　○「あれ？　でも給料日だろ？」

　○「だって、給料は大事に使えって言われたから、使っちゃいけないんだよ」

　○「ん？　今までのお金はどうしてたの？」

　○「前の仕事のときの貯金からおろしてたんだけど、それがなくなってきてね」

　○「じゃ、今の給料はどうしてんの？」

　○「どうしていいかわかんないからタンスに突っ込んでる！」

　○「えっと……」

　○「どうしたの？」

　○「いや、給料って、使うためにあるんじゃないの？」

　○「でも、給料は大事に使いなさいって言われたから、使っちゃいけないかなぁっ

　て」

　○「いや、大事に使えってそういう意味じゃないんだよ」

　○「じゃ、どういう意味なの？」

　○「…程度を決めて使うとか？」

　○「程度ってなに？」

　○「えーと、いくらまでなら使っていいとか決めてさ、その範囲内で使うとか」

　○「うーん、でも、大事に使えって言われたから……」

　○「だから大事ってのは、使っちゃいけないって意味ではないんだってば！」

　○「じゃあ、どうすればいいのさー！」

　という堂々巡りの会話をして、結局バーには行けなかったことがありました。

　　あおはあいまいな言葉のニュアンスというものがつかみにくいことが多々ありま

　す。

　　この「大事に」という言葉もまた、あおの中では「あいまいな言葉」であって、

　程度がわからない、ということから先のような会話になりました。

　○「だって、『程度』って見えないじゃない」

　○「イメージの問題なんじゃないかな、その指示を出した人の」

　○「でも、その『イメージ』も見えないからなぁ」

　○「見えないとダメなの？」

　○「うん、見えないのは、ないのと同じだよね？」

　　　　　　　○

　「あお」さんは、「給料は大事に使え」は、普段は使ってはいけない、という意味に取ってい

る。確かに、「大事に使う」は、抽象的でわかりにくい言葉だ。

　「大事に」もイメージが難しいし、「程度」も、イメージがしにくい。

　この問題は、毎月の給料の中で、具体的に使う金額を個別に決めていけば解決するだろうが、

それでも興味深いのは、「あお」さんの最後の言葉だ。

　「見えないのは、ないのと同じ」という発言は、自閉っ子の「見えないものは、ない」と

いう概念と一致するものだ。

　それにしても、「見えないものは、ない」は、文字通り「目に見えないものは、ない」という

ことだと思っていたのだが、「給料」にもあてはまるものだとは思わなかった。

（この項、了）