〜「身体感覚」「感覚過敏」の追加〜　

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　自閉症の身体感覚・感覚過敏の在り方は、ひとつではない。十人いれば、十人違う感じ方に

なると言えるかもしれない。ある自閉症者には安心する音が、ある自閉症者には、恐怖の対象

になる、ということもあり得る。ここでは、テンプル・グランディンの記述から、いくつかを

追加しておく。

◎「身体感覚」の追加◎

　　私はいつも自分の身体と身辺との境界を自覚できていたが、他の重度の自閉症者

　の中には、その能力のない者がいる。彼らは自分の足を見つめてからでなければ、

　自分の位置が分からない。若い自閉症のジム・シンクレアーは、自分の身体がどこ

　にあるのか分からないという。ダーナ・ウイリアムズは、一回に身体の一部分しか

　認知できないほど、ばらばらな感覚処理をする。身辺の物も彼女はばらばらにしか

　認知できない。物を一回につき一部分ずつしか把握できないのである。ダーナはリ

　ズミカルに物をたたき、ときには自分もたたいて、自分の身体と身辺の境界を確か

　めたという。彼女は環境刺激が強すぎると興奮して、自分をかんだりしたが、かん

　でいる自覚もなかった。

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　これらの記述は、ニキ・リンコなどの身体感覚の記述と共通している。自分の足を見てから

でないと、自分の位置がわからない。ドナ・ウィリアムスのように、周囲のものを叩いて境界

を確認する場合もある。また、自傷行為も、そうなのかもしれない。

◎「感覚過敏」の追加◎

　　極端に敏感な肌も大きな問題である。子供のころ、教会に行く前に髭を洗い着替

　えをするという二つのことが、私はいやでならなかった。私の頭皮は洗髪のとき本

　当に痛かった。指先が針のように私の頭皮を刺した。がさがさするペティコートは、

　むきだしの神経をこするサンド・ペーパーのようであった。実際のところ、私は着

　替えそのものが我慢できなかった。スラックスに慣れた後、スカートを履いたとき

　太股触のれ合う感触(太股の触れ合う感触？・松本)が、私には耐えられなくなった。

　夏の間にショート・パンツに慣れた後は、長いスラックスを履くことができなかっ

　た。人は普通何分かすれば慣れるのに、私は少なくとも二週間かかった。新しい下

　着はごしごし感じられ、それは恐ろしいほどだった。ブラジャーはぼろぼろになる

　まで使い、新品は十回以上洗濯したものでなければ、着心地がよくない。今日でも

　縫い目が針のように感じられるので、下着は裏返して着るほうが好きだ。こうした

　皮膚刺激が引き起こす自閉症児のかんしゃくを避けるために、柔らかい素材の下着

　類を選んだほうがよい。

　　幼児期のことだが、私にとって大きな音は、まったく歯医者のドリルが神経に突

　き刺さるような感じがして、実際に痛みを引き起こした。風船の破裂音は死ぬほど

　怖かった。それは鼓膜を破らんばかりに響いたからである。普通の人が無視できる

　ような低いノイズでも、たやすく気が散った。大学時代、ルーム・メイトが使って

　いたヘアー・ドライアーの音は、ジェット機がそばを飛び立っていくように響いた。

　自閉症児にとって耐えがたい音はキーンという電気ドリルや、ミキサー、のこぎり、

　掃除機などの音である。体育館やバスルームの反響音も耐えがたい。もちろん、そ

　の反応は人それぞれによって違う。私にとって苦痛な音が、ほかの自閉症児には快

　感をもたらすこともある。ある自閉症児が好む掃除機の音は、ほかの自閉症児には

　恐怖であるかもしれない。トイレの水を流す音に魅せられて、自分で何度も水を流

　す自閉症児もいれば、その音がナイアガラの滝の爆音のように響くので、恐怖のあ

　まりおもらしをする自閉症児もいるといった具合に。

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　皮膚感覚の過敏と、聴覚の過敏の記述だ。もともとこういう感覚過敏をもって生まれてくる

人たちにとって、世界は僕たちとはまったく違って感じられるに違いない。

　また、風船を見るだけで、怖がる自閉症者は多い。テンプル・グランディンによれば、風船

の破裂音は、本当に「鼓膜を破らんばかりに」響いているのだ。それでは怖がるのも無理はな

いと思える。ひょっとすると、「定型発達者」の場合は、無意識に聴覚のフィルターで音量を

小さくしているのかもしれない。自閉症者は、音がそのまま入ってくるのかもしれない。