〜恐怖・苦痛・自傷〜

　　恐怖心は私の人生において極めて重大な役割を果たしています。フレデリックが

　多くの機械的な物を恐れているように、私もある種の感覚を恐れます。自動車が速

　いスピードでそばを通った時の音は、頭の中で何かを誘発し、とても苦痛を感じさ

　せます。また子どもの頃、掃除機や芝刈り機の音にとても混乱させられたことを憶

　えています。それは私のふいをつく予期しない音でした。言葉にならない感情が私

　の反応を引き起こします。多くの場合私の反応は、壁に頭を打ちつけたり、つねっ

　たりして自分自身に苦痛を与えるというものです。奇妙にもそうすることで、私は

　現実に引き戻されるのです。

　　　　　　　　　　○

　自閉症者の感情の中心が恐怖であるという記述のひとつとして、書き留めておく。この人は、

「恐怖心は私の人生において極めて重大な役割を果たして」いると言っている。　

　また、この記述において興味深いのは、恐怖の感情は、苦痛を引き起こし、壁に頭を打ちつけ

たり、つねったりして、自分自身に苦痛をあたえて自傷すると、「現実に引き戻される」と書い

てあるところだ。

　重度の自閉症の子の中には、顔が変形するくらいに何度も自分を殴ってしまう子がいるのだ

が、外側から見るとどうしてそんなことをするのか、まったくわからないということになってし

まう。無理やり止めても、かえって激しくなってしまう。

　その子の内側からすると、自傷行為の苦痛を上回る恐怖や不安感が、心の中に渦巻いている可

能性がある。自傷行為を力づくで、無理やり止めさせることは、恐怖や不安感をますます増大さ

せる結果になってしまうだろう。

　（この項、了）