〜ジャージー牛〜

　瑠璃真依子は、二十歳を過ぎてから、「広汎性発達障害」と診断される。

　小さい時から、自分と周囲に違和感を感じており、成長して教師になるのだが、ストレスが拡

大して、精神病院に入院するほどになってしまう。

　学校を休んでいる間に、酪農家にお願いして、牛の世話をさせてもらった。

　　　　　　　　　○

　　ジャージー牛はとてもかわいいです。まずはＸ号という名前を覚えるために、一

　頭一頭写真を撮りました。顔の写真とお乳の写真をノートに貼って、前から見ても

　後ろから見てもわかるようにしました。特に、耳に耳標といって数字を打った札が

　つけてあるので、「３２２８は２号」というように耳標で覚えるやり方も私にはや

　りやすかったです。

　　においも私はけっこう平気で、すごく楽しかったです。朝六時から八時までと、

　夕方四時から六時三十分までの二回だけさく乳の時間があり、難しかったけれど、

　できたのは、そこの家の人が優しく丁寧に教えてくれたのが大きいです。その一家

　には、二、四、六歳の男の子がいました。その子たちと遊ぶのも楽しかったです。

　でも仕事中に話しかけられると同時に二つのことがをするのが苦手なので、すごく

　困りました。

　　この牧場での牛飼いのお仕事は本当に心がいやされました。

　　　　　　　　　○

　この牛の世話によって、「本当に心が癒された」という感覚は、やはり発達障害特有のものだ

と言えるように思われる。

　だって、人間関係では、入院しなくてはならないほどに消耗してしまうのに、牛が相手だと

「心が癒される」のだから。

　僕はすぐに、テンプル・グランディンを思い出した。

　また、テレビの「さかなクン」も、魚についての驚異的な知識を持っているのに、職場の人間

関係がうまくいかなかったと言われている。　

　（この項、了）