〜「脅迫行動」〜

　　ママにはいまでも言われてるんだけど、小さいころのぼくは、寝る前にやらなき

　ゃならない約束ごとがいっぱいあってね。全部、正しくやり終えるまで、寝ようと

　しなかったんだよ。ママはそのときのことをふり返って、あれは就眠儀式ってやつ

　だったのねって言うんだ。だけどぼくに言わせれば、儀式なんてもんじゃなかった

　よ。あのときの感じは自分でもはっきり覚えてる。うーん、ほんと言うと、これを

　書くのはちょっと恥ずかしいんだけどさ……。つまりね、壁にはひとつ残らずキス

　して、それから電気をつけて、消して、ってのを三回くり返して、いつも同じ決ま

　ったおもちゃを部屋からほうり出して、それから別のこれまた決まったおもちゃふ

　たつを並べて置く。それを毎晩やらなきゃいられなかったんだ。

　　このときのぼくはたったの三歳か四歳だったけど、これはまさしく強迫行動だっ

　たよ。とにかく、絶対にやらないわけにはいかなかったんだから！　ひとつでもや

　り残したときのあの感じは、とてもじやないけど説明できない。説明しようとする

　ことさえできないくらいさ。全身がだんだんふくれ上がって、破裂しそうな気分だ

　よ。これを読んでるＡＳの仲間たちの中に、わかる人はいるかな？　あの「やらな

　きゃ！」っていうむずむずした感じときたらものすごい勢いでね、とにかく、屈伏

　するしかできない。

　　　　　　　　　　○

　「こだわり行動」なのか、「脅迫行動」なのか、外側から見ただけではわからない場合がある

のだが、これは、確かに「脅迫行動」だろう。

　それにしても、その気分は、やらなければ、「全身がだんだんふくれ上がって、破裂しそ

うな気分」になるほどだとは！

　これほど、脅迫観念が強いものだとは思わなかった。本人にも、どうしようもないわけだ。

　ルーク・ジャクソン君は、今はそこまでのものはないと言う。それは、「自分で自分と交渉で

きる」ようになったから、らしい。そこまでしなくても、他のもので換えてもらうように、自分

自身と交渉するわけだ。だが、それは成長したＡＳであるジャクソン君だから、可能になっただ

けだ。

　言葉が話せなくて、自分の気持ちが表現できない、あるいはもっと重度の子の「脅迫観念」の

場合、「自分で自分と交渉する」ということはできないだろうから、相当に、苦しいのではない

だろうか。

　（この項、了）