〜僕の頭の中の世界〜

　　ぼくの頭の中の世界では、いろんな色や形、イメージなんかが、てんでに形を変

　えたり、たがいにくっつき合ったりしてる。自閉症の子どもたちの中には、まるで

　自分だけの透明な球の中でくらしてるように見える子がいるけど、あの子たちは、

　いっつもこんな感じなんだろうな。ぼくはそんな子をおおぜい知ってるよ。あの子

　たちの住んでる世界って、ぼくが小さいころに住んでたのと同じような世界なのか

　な。

　　いまのぼくは、もっぱらこっち側の世界の方に焦点を合わせるように心がけてる。

　でもそのかわり、ヒモとか、ヒカリモノとかをもて遊んだり、万華鏡や、ひっくり

　返すとゆらゆら動く油滴のおもちゃ（ラヴァランプ）なんかをのぞいたりしてうめ

　合わせているんだ。なかなかすてきなもんだよ。こっちの世界にいながらにして、

　ひととき、こっちの世界を忘れられるんだからね！

　　　　　　　　　　○

　ルーク・ジャクソン君は、13歳。

　彼が子供の頃の、頭の中の世界を記述している。

　こんな風に、描写してくれるものは、珍しい。

　でも、もしも、こんな風に世界が見えていたら、自閉症の子供にとって、この世界で生きてい

くことは、とても大変なことに違いない。そういう意味では、大変、貴重な証言のひとつだと思

う。

　「いろんな色や形、イメージなんかが、てんでに形を変えたり、たがいにくっつき合っ

たりしてる。」世界では、常同行動や、こだわり行動によって、精神を安定させるものにひか

れることが、とてもよくわかる。それが、定型発達者にとっては、いかに奇矯な行動に見えて

も、彼らにとって、どれほど重要な行動であるか、計り知れないのだと思える。

　（この項、了）