〜「頭蓋骨の手術」〜

　　また、頭蓋骨の手術も話題になっています。

　　頭の骨は三枚から成っていますが、先天的に頭蓋骨が三角形に尖ってみえる子ど

　もがいます。それほど多い例ではありませんが、美容的整形外科手術をすることが

　あります。

　　沖縄の某県立病院の脳外科では、その手術によって自閉症が改善したという例を

　発表し、話題となりました。脳を内側からみてきた児童精神科医にとっては、脳の

　複雑な機能障害が、簡単な手術によって改善するとはにわかには信じられないこと

　です。

　　こうした実験段階の治療をおこなうには、病院内の倫理委員会にかけ、倫理規定

　に則ってからというのが決まりですが、以前、私たちがその病院に問い合わせたと

　ころ、当時の副院長は「倫理委員会には諮っていない」と認めました。

　　ただし、問題はここからです。その後、この手術についてまとめた論文が、日本

　小児脳外科学会から賞を受けました。一度は、倫理委員会に諮っていないことを認

　めた病院側は、いや倫理委員会には諮った、などと回答を二転三転させています。

　いったい事実はどうなのか、現在、日本児童青年精神医学会の倫理委員会が、日本

　小児脳外科学会に回答をもとめている最中です。

　　自閉症の子どもをもつ親とすれば、藁にもすがる思いですが、倫理規定に則らず

　先走りするような治療は、きわめて問題のあるものと考えずにはいられません。困

　ったことに、自閉症の子どもをもつ親たちからの要望が高まり、東京都内のある医

　療機関でもこの手術がおこなわれると聞きました。わが子を思う気持ちは理解でき

　ますが、根拠のない治療に翻弄されるのは、もっと大きな悲劇を生む可能性があり

　ます。

　　　　　　　　　　○

　この本が出版されているのは、２００５年だから、この手術は、７年前（現在は２０１２年）

には行われていたことになる。話しに聞いたことはあったが、「賞」まで受けているとは知らな

かった。

　現在、こういう手術が行われているのかどうか、僕は知らないが、この自閉症への考え方は、

「外側から見た自閉症」の極限の考え方だと言えるだろう。

　親の気持ちからすれば、外科手術で「自閉症」が治るなら…と思ってしまうのだろうが、僕に

は考えられないとしか言いようがない。

　＜内側から見た自閉症＞の立場から考えるかぎり、外科手術で「克服」するような「障害」で

はないと、僕には信じられる。

　「自閉症とは何か」を問うことは、「人間とは何か」を問うことと同義であり、「動物

とは何か」を問うことと同義だ。

　そんな場所を見つけることが、中心の課題だと僕には信じられる。

　（この項、了）