〜アルバイト（1）〜

　ＡＤＨＤやアスペルガー者の記述にはよくあることなのだが、ゴトウサンパチも、仕事が長続

きせずに、たくさんのアルバイトを経験している。

　この場合では、本人は自分が「発達障害」であることを認識していない。また、職場の人たち

も、「発達障害」という理解の仕方はしていない。

　　　　　　　　　○

　　造園のバイトは単純作業ばかりだった。草をむしって、剪定された枝葉を集めト

　ラックに投げ人れる。その繰り返しだ。ある時、ある大手の一部上場企業の社長宅

　に行った。ものすごく広い庭。なぜかそこに僕だけ降ろされ、

　　「ここの草を抜いてくれ」

　　と、指示された。

　　「はい」

　　僕はとにかく一生懸命草を抜いた。この広い庭の草をとにかく抜かなきゃ、そう

　思って頑張った。腰は痛いし、足がつる。でも、我慢して抜きまくった。すると、

　トラックでどこかに行っていたみんなが帰ってきた。そして、開口一番、

　　「よく頑張ったなあ」

　　その言葉はうれしかった。しかし、ふと気がつくと弁当を食べていなかった。休

　憩もしていなかった。そして夕方になっていた。事務所にたどり着き、社長の奥さ

　んに事情を話すとびっくりしていた。いやー僕のほうがびっくりだ。どうして教え

　てくれなかったんだ。何時に休めとかご飯の時間だよとか。その日の帰り道、事務

　所の前のバス停でバスを待っていると、暗闇と雨の中、バスのヘッドライトがまぶ

　しく見えた。しかし、気がつくと僕の頭の横にバスのタイヤが光っている。

　　そう、僕は気絶していたんだ。バスが僕の頭を轢こうとしていたのだ。

　　僕は死んじゃったはずの祖父母に起こされた気がして、目を開けた。だから助か

　ったのだ。

　　つくづく運のいい人間だと思う。その後、僕の見込んでいた額とはまったく違う

　バイト料に腹が立ち、社長と喧嘩してそこも辞めた。

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　このエピソードは、「倒れるまでやってしまう」発達障害の人の傾向がよくわかって興味深

い。ゴトウサンパチは、「草取り」をしないといけないと思ってしまうと、弁当も休憩もせず

に、他の人から止められるまで、続けてやってしまう。作業が「単純作業」であるのも、没入し

てしまう原因のひとつかもしれない。

　人から「弁当」とか「休憩」とかを教えて、止めてもらわないと、そのまま続けてやってしま

う。それで、帰り道には、倒れてしまう。

　「長所」と言えば「長所」だが、倒れてしまっては、元も子もない。

　普通、定型発達者だったら、こうはならない。何よりも、「倒れる」ほど、草取りを続けるこ

とは、絶対にできない。その前に途中でやめてしまうだろう。

　倒れそうになるまで頑張って、それでも「よく頑張ったなあ」という言葉をかけられると、

それだけで素直に喜んでしまう。

　最終的には、バイト先の人間関係がうまくいかずに、喧嘩になってやめてしまうのも、よくあ

るパターンだと思う。

　（この項、つづく）