〜「味覚」の再現（再論）〜

　　僕には不思議な力がある。一度食べたら、味付けがわかるのだ。だから、彼女が

　食べたいという料理を食べに行き、その味を覚えて帰ると、再現して振る舞った。

　そうやってレパートリーがどんどん増えていったのだ。まさにギフテッド。神様

　からのプレゼントだ。

　　　　　　　　　○

　ゴトウサンパチと言う人は、「見て学ぶ」能力が、優れている人らしい。

　集中して「見る」と、学ばなくても、できるようになるらしい。昔で言うと、「職人」さんの

タイプだ。

　「音」も、音楽と聞くと、聞いただけで、どの楽器の音が入っているか、「聞き耳」ができる

らしい。

　友達が自転車に乗るのを「見ている」だけで、いきなり自転車に乗れる自閉症の子もいる。

　ピアノを「見て覚える」自閉症の子もいる。　

　この「味覚」の再現の能力も、その一種だと言えるのではないだろうか。

　直観として「味覚」を把握する能力があるのではないか。

　ここで、もうひとつ書き留めておきたいことがある。

　この味覚で、料理の味を再現する能力は、泉流星さんの記述の中にも見られたものだ。

　いい機会なので、再びそれを引用しておく。

　　　　　　　　　　○

　　異星人妻は、少なくとも我が家では一番すごい料理人だ（ま、うちには妻と僕し

　かいないんだけどさ）。妻はどこかで一度でもウマイものを食べると、その味を記

　憶することができる。しかもただ覚えるだけじゃなく、どうやったらその味が出せ

　るのか推理して、自分で再現することができるんだ。妻自身は、こんなの特別珍し

　いワザじゃないって言うんだけど、本当かい？　味を記憶したり再現したりするな

　んて、僕には何とも不思議な、信じられないことに思えるんだ。

　　だって、料理の味を再現するといっても、妻の場合、正確な作り方も分量もほと

　んどが「てきとー」。元々は高級な料理でも、再現するために特にグルメな材料を

　揃えるでもなく、手の込んだ準備をする様子もない。ごく普通に、近所のスーパー

　で食材や調味料を調達し、趣味で集めてるいろんな国のソースやスパイス類を使っ

　て、ささっとごまかして作るだけ。なのに、僕にとってはびっくりするほど「あの

　時のあの味」と同じものが出来上がるんだ。

　　　　　　　　　　○

　「適当なことができるっていうのは絵と同じかもしれないけど、味の再現ってとこ

　はまるで違うだろ？　そこはどうなってるわけ」

　「さあね。そもそも、一度食べた味ならたいてい自分でも作れるなんて、結婚する

　まで全然気づかなかった。独身時代はずっと、洋風の食べ物しか作ってなかったん

　だ。…

　　　　　　　　　　○

　「そう、その時気づいたの。夫が和風のおそうざいが食べたいって言うからさ、ま

　ずは、和食ってどうやって作るんだろ？　って、料理本で材料と調味料と手順を調

　べるところから始めたんだ。でも結局はいつも通り、本は参考にしただけで、自分

　流に作って、味つけも目分量でしちゃったんだけどね。それでもちょうどいい味が

　出せた時、『あ、これだ』って、はっきりわかった。自分で作ったことはなくても、

　実家でずっと和食中心の食事してきたから、味の記憶はしっかり自分の中にインプ

　ットされてたわけ。だから初めてでも簡単に味が出せたんだ」

　　　　　　　　　　○

　僕は、味覚（や料理）は、まるで鈍感なので、語る資格はないのだが、いくら、和食中心で育

って、味がインプットされているからと言って、いきなり「味覚の再現」の能力がある、という

のは、誰でもできる、というわけにはいかないだろう。

　こうやって見ると、ゴトウサンパチの能力と、泉流星の能力には、＜共通性＞があると考えて

いいように思われる。

　「味覚」で考える能力、とでもいうべきか。

　（この項、了）