〜「高次脳機能障害」（2）〜

（承前）

　※引き続き、『目印はフォーク！』の中から、交通事故で脳にダメージを受けたカーラ・スワ

ンソンの記述から、自閉症・発達障害・ＬＤなどに似た箇所の記述を取り出しておく。

　　　　　　　　　　　○

　　高次の学習機能の不具合は一三種類見つかった。あるものは軽症で、あるものは

　中ぐらい、そしていくつかは重度だった。物ごとの脈絡を追うという機能はだめに

　なっていることがわかった。注意を向けたいところに向けることもできないし、集

　中を持続することもできないので、人との会話はあまり長くは続かない。一方的に

　聞くだけと決めても、内容を追えない。

　　言語療法士のロンダが何か私に質問をする。あるいは、次にする課題を見せ、説

　明してくれる。でも私は、ロンダの机の上にかかっているダルメシアンの絵を見て

　いるだけ。

　◎ＡＤＨＤの子などの行動と、よく似ているように思われる。注意を向けたいところに向ける

ことができない。人との集中が長く続かない。人が話そうとしても、注意はすでに他のものに移

っている。

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　　私の場合、いくつかの用事を同時進行する能力が壊れていた。スパゲティをゆで

　るためのお湯をわかしながら、一方では具に使う肉に焼き色をつけ、ついでにサラ

　ダ用の野菜を刻もうなんて考えようものなら、スパゲティはどろどろ、肉は燃え、

　野菜は床に散らばり、ボウルは宙を飛び、私はノンストップで放送禁止用語をわめ

　き散らすことになる。材料は一度に一種類ずつ相手にするしかなかった。しかも、

　ほかの物が一つでも冷蔵庫から出ていたり、調理台に出しっぱなしになっていたり

　すれば、たちまちそっちへ気がそれてしまう。

　　部屋のまん中に立っていると、バランスを崩さないことと、人と話すこととが同

　時にできなかった。ある日のこと、友だちが手を伸ばして私をつかまえたかと思う

　と、両肩をしっかり押さえて言ったものだ。「カーラ、あなた今、ゆらゆらしてる

　の自分でわかってる？」それからは、人と話すときは、集中できるよう、壁にもた

　れるか、家具によりかかることにした。さもなきゃ、椅子に座る。転ぶんじゃない

　かと心配せずにしゃべれるから。

　◎自閉症者は、「シングルタスク」であって、パソコンのような「マルチタスク」が苦手、と

言われている。同時に、複数の仕事が、とても難しい。（※反面、ひとつの仕事に没頭する集中

力が、抜群に素晴らしい、とも言える）

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　　真夏にコンクリートの上を裸足で歩いたり、熱いコンロにうっかり触ってしまっ

　たりすると、ヒトの脳は電光石火のスピードで信号を送り、逃げろと命じる。とこ

　ろが私の場合、両脚の自己防衛感覚の九四パーセントが失われていた。だから、十

　分に素早く動けず、危険から逃げるのが間に合わないというわけだった。

　　それに、自分の脚が今、何をしているのか、目で見ていないともうひとつはっき

　りとはわからなかった。立ち上がるときや歩きはじめるときは、脚が本当に正しく

　動いているか、確認してみるしかなかった。

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　◎温度や痛みの感覚が鈍感な自閉症の人がいる。

　また、−−自分の脚が今、何をしているのか、目で見ていないともうひとつはっき

　りとはわからなかった。立ち上がるときや歩きはじめるときは、脚が本当に正しく

　動いているか、確認してみるしかなかった。−−

　ニキ・リンコは、こたつに入ると、脚が「なくなってしまう」らしい。傘をさしていると、

目で確認しないと、どこまでが傘で、どこまでが手か、わからなくなってしまうらしい。

　また、「自分の背中が見えない」ので、小学校の頃には、自分には背中はない、と思って

いたらしい。

　　　　　　　　　　　○

　カーラの病状は、自閉症者、ＬＤ、発達障害者（総じて、自閉症スペクトラム）の要素が、と

てもたくさん含まれていると言えるように思われる。自閉症、ＬＤ、発達障害などは、カーラの

それぞれの症状の「一部」なのだ、とも言えそうだ。

　自閉症者とカーラの記述で違うのは、自閉症者は、これらを「生まれつき」に持っているの

で、自分の「見え方、感じ方の特異性」に気づかない。周囲の人間とのギャップに堕ち込んでし

まう。

　反対に、カーラは、事故で、突然陥ってしまったために、以前の自分の状態とのギャップに傷

ついてしまう。

　だが、同時に、どちらにも共通しているのは、自分から環境に対して働きかけ、環境を変

えていくことで、脳が変化し、症状を改善していくことは、必ず可能だ、ということだ。

　（この項、つづく）