〜デートのスキル〜　

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　…もっとがんこな考え方しかできない自閉症者がデートしようとすると、もっとひ

　どい問題が出てくる。彼らには適正な行動がまったく分かっていないのだ。ある若

　者は好きになった女の子の家に、フットボール用のヘルメットで偽装して出かけて

　いる。そんな格好で窓からのぞきこんだのだが、それでいいのだと考えていた。彼

　の理屈では、だれも彼を見破れないだろうから、外に立って彼女をじっと待ってい

　てもよいのだ、ということになる。

　　ビジネス関係のことは、記憶することで容易に学ぶことができるが、デートにつ

　いては難しい。アパートを借りたり、仕事をキープするためのソーシャル・スキル

　（社交術）を学ぶのは、デートに必要な技術を学ぶよりもやさしい。なぜなら、私

　には人との複雑なかかわりの中で、相手の心を読む感覚がほとんどないからである。

　ある講義をした後、私は若い自閉症男性から、まったくふさわしくないヴァレンタ

　イン・カードをもらったことがある。それは小学校三年生が交換するようなカード

　だった。彼は、私がそのカードを結婚の申し込みとして、まじめに受け取ることを

　期待していたが、無視されたので失望してしまった。私が返事を出さなかったのは、

　そうすると、きりがなくなることを経験から知っていたからである。彼の教師たち

　は、会ったばかりの人に結婚の申し込みをするものではないことを彼に説明する必

　要がある。

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　社会で働くスキルを身につける(ソーシャル・スキル)よりも、人間関係のスキルの方がはる

かに難しい。男女関係は特にそうだ。これは、僕も実感としてそう感じていることだが、自閉

症者にとってはなおさらのことだろうなと思われる。

　「視覚で考える」ことが得意な自閉症者にとっては、「心」は目に見えない上に、とても複

雑な動きをするからだ。

　僕の聞いた話なのだが、自閉の生徒で、頭の良い子がいたが、会社勤めをして、そこの事務

の女の子に笑顔で挨拶されたらしい。そしたら、その女の人が好きになってしまい、ずっとし

つこくつきまとったそうだ。事務の女の子は、普通に会社で誰にでもする「愛想笑い」をした

のかもしれないし、障害者ということもあり、少しは優しい対応をしたのかもしれない。

　それを「好きなサイン」だと、勝手に解釈してしまった。

　あまりにもしつこくつきまとったので、その女の人は、故郷(熊本県？)かどこかに会社を辞

めて帰ってしまったらしい。そしたら、自動車で、その実家にまでおしかけていったらしい。

　「相手の気持ちになって考える」「相手の心を考える」(自己を抽象化して考える)、という

ことができなかったのだ。

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　「私が返事を出さなかったのは、そうすると、きりがなくなることを経験から知ってい

たからである。」

　だから、ヴァレンタインカードを送った男性に対して、テンプル･グランディンが取った態度

はまったく妥当なものだ。ハッキリとした明確な意思表示をしている。そうしないと、その男

性は、「断られた」という意味を理解できなかったかもしれない。充分にありえることだ。