〜本当に大切なこと〜

　　特別支援学校を経営したり、自閉症の人に治療サービスを提供したり、製品を売

　ったりする会社の中には、親を自責の念に駆り立てようとする人もいます。残念で

　すが、これが今日の社会の現実です。親は誰しも子どもにとっていちばんいいもの

　を望みますし、子どもが自閉症と診断されたばかりの親は、とりわけ気弱になって

　います。そこにつけこんで、業者は広告を出したりセールスに来たりして、親の気

　持ちを食い物にします。自分たちのプログラムや製品をためさないなら、いい親で

　はないとか、子どもを救うために「できるかぎりのこと」をしていない、とほのめ

　かすのです。これを買わないと、子どもの将来は真っ暗だとまで言う業者もいます。

　　ある親御さんがこのような業者に勧誘されて不安になり、相談の電話をかけてき

　ました。一家は自閉症の四歳の子どもをよその州の特別支援学校に入れようと考え、

　資金を工面するために自宅を売る覚悟をしていたのです。「お子さんは地元の公立

　学校で勉強して、進歩していますか」と私が尋ねると、「進歩しています」と父親

　は言いました。それでも、特別支援学校の経営者は、「うちの学校に入れたらお子

　さんはもっと進歩しますよ」などと言っていたのです。私は父親と話し合い、「お

　子さんを、家族やなじんだ環境から引き離してよその州の学校に入れたら、生活が

　混乱して悪い影響を与えるのではないでしょうか」と助言しました。子どもがよく

　なるどころか、悪くなるかもしれない可能性がたしかにあったのです。結局、両親

　は子どもをそのまま地元の学校に通わせ、一対一の療法を数時間加えることで指導

　を補うようにしました。

　…子どもの成長を手助けするヒントはたくさんあります。とくに重要なヒントは、

　子どもが得意なものを伸ばすこと、子どもの「こだわり」を利用して学校の勉強に

　やる気を出させること、学校生活のかぎられた数年間だけでなく、生涯にわたって

　役に立つ問題解決スキルと思考スキルを教えることです。

　　　　　　　　　　　○

　僕も、お金儲けのために、保護者に自責の念を駆り立てるような自閉症の療法には、まったく

賛成できない。

　僕の身近でも、わが子が自閉症で、お金をかけて、「いい学校へ」という話を聞いたことが

ある。

　だが、大切なのは、何なのか。

　一体、誰のための、教育なのか。

　自閉症の教育にとって、一番大切なのは、結局、たくさんの「お金」なのか。

　僕は、それでも、それは間違っている、と言い続けたい。

　人間を、生徒を、バカにするな。

　経験的に言えば、自閉症者に対して大切なのは、「お金」ではない。

　テンプル・グランディンが言うように、とてもシンプルなことだ。

　子どもが得意なものを伸ばすこと、

　子どもの「こだわり」を利用して学校の勉強にやる気を出させること、

　学校生活のかぎられた数年間だけでなく、生涯にわたって役に立つ問題解決スキルと思

考スキルを教えること。

　このことに、お金は必要ない。

　必要なのは、アイデア。根気。子供への愛情だ。

　それがなければ、どんな高価な療法も、効果は上がらないだろう。

　（この項、了）