〜自閉症者の愛情（2）〜

　　定型発達者は、養護・養育施設を他のサービスと同じように利用する。彼らにと

　っては、それはもうひとつの「家」ではなくたんなるサービスにすぎない。一方、

　自閉症の子どもは、養護施設に慣れて居場所を見つけ、施設の環境や特定の養育者

　に強い愛着を抱くようになる。けれど親は施設を利用しなくなると、わが子が外見

　上はわからずとも心の中で密かに深い愛着を形成している可能性など考えもせず、

　自閉症の子を気安く施設から引き離してしまう。他人と打ち解けず直接的な対立を

　避け、言葉をしゃべれず、他にコミュニケーションの手段がない自閉症の子には、

　自分が親代わりの人物やもうひとつの「家」を失って悲しみに近い感情を抱いてい

　ることなど、伝えられるはずもない。本人の感受性がひときわ強く、傍目にはわか

　らなくても内心で深い愛着を形成している場合−−この格好例は男性にまま見られ

　る−−、過去の喪失感をひきずったまま新たな社会体験に臨むこともある。彼らは

　新たな人間関係や他人と親しくなる新たな機会を受け入れる代わりに、これまで以

　上にわが身を守り、二度と同じ喪失や悲嘆を経験せずにすむよう、他人と親密に打

　ち解けるのをかたくなに拒んだりする。

　　　　　　　　　　　　　　○

　なるほど。

　こういうことも、自閉症者の内側からの言葉で語ってもらわないと、僕たちにはなかなかわか

りにくいことだと思える。

　定型発達者にとっては、「施設」は、サービスのひとつにしか過ぎない。だが、そこに入って

いる自閉症者は、施設の空間に愛着を感じ、施設の人に愛着を感じているかもしれない。だが、

そのことを言葉に出して表現することもできないし、身振り手振りで表現することもできない。

　僕たちだって、もしもそういう状況に陥ったら、とても苦しくなることだろう。

　（この項、了）