〜「顔」について〜

　顔を覚えられない（認識できない）自閉症者の記述は多い。

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　　私は、帰り道でいじわるをする少年たちが誰なのか、知らなかった。私には顔が

　見分けられなかった。みんな空っぽの顔をした男の子で、互いにくっつき合い、ま

　ざり合うばかりだった。だから払は、いじわるをしてくるのは、毎回、別の子だと

　思っていた。

　　いじめっ子の顔がわからないのは、自分が人の顔を覚えられないせいだなんて知

　らなかった。だから、こう考えた。あの子たちには一度も会ったことがない。それ

　なのに、どうしてみんながみんな、私をいじめればいいということがわかるのだろ

　う？私はどこか変に見えるのだろうか？　私には何か目立った特徴があるのだろう

　か？　あの子たちにしかわからない特徴なんだろうか？　きっとそうなんだ。そう

　でなければ、どうしてみんながみんな、私のかばんだけをとろうとするだろうか。

　子どもは他にもたくさん歩いているというのに。（グニラ・ガーランド）

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　グニラ･ガーランドは、人の顔を見ることができずに、空っぽの顔のように見えている。父親

や母親などは、長い時間一緒にいるので覚えているらしい。

　しかし、興味も関心もない学校での、動き回る友達の顔は、認識できていない。

　東田直樹君の場合、顔の全体がわからない。顔の動きがわからないことは、恐怖につながっ

ている。

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　　人の顔については、部分がわからないから全体がわからないのだと思います。人

　の顔を見るときは、どの部分から見たらいいのかわからずに少しだけそっと見ると、

　なんだか部分がバラバラな感じだけで、その人の顔が思い出せないのです。顔は、

　表情が変わるから覚えられません。顔が覚えられないから、今まで人のことが怖か

　ったのかも知れません。人が怖いというのは、その人が何かわからないからだと思

　います。

　　普通、物は変化しないから、自分にとって何だか良くわかるのです。だから、怖

　くなくなったらきっともっと僕は、人とかかわれると思います。顔が違ってもその

　人は変わらないということを、良く理解すればいいのです。そのことにやっと気づ

　きました。

　　それに、僕を見ている目はとても怖いのです。何が怖いのか考えてみました。考

　えてみると、僕を見ている黒目だけは、いつも同じだから気味が悪いのです。人は、

　動きや表情がすべて変化するのに、黒目だけは変わらずに僕を見ます。それが怖い

　のです。（東田直樹）

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　グニラ･ガーランドと東田直樹君の感覚は、共通性があると思われる。

　人の顔がわからな（区別がつかない）ければ、僕たちだって、この世界は、恐怖の世界に見

えるに違いない。空っぽの顔が、突然大きな声で、大きな口を開けて笑ったら、恐怖に見え

るだろうと思われる。

　「人の顔については、部分がわからないから全体がわからないのだと思います。人の顔

を見るときは、どの部分から見たらいいのかわからずに少しだけそっと見ると、なんだか

部分がバラバラな感じだけで、その人の顔が思い出せないのです。」

　昔、ＮＨＫの自閉症の子どもの番組を見ていたら、お母さんは、「この人だあれ？」と、自

分の顔を指差すシーンがあった。

　その子は、何と答えたか。

　「お鼻」、と答えた。

　この子にとっては、「顔全体」ということがわかっていない。「過剰特異性」の目によっ

て見ているために、ただ、顔の部分・部分だけが見ていて、全体としての、顔の意味を認識で

きてはいない。