〜感覚障害(続)〜

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　　私が泣き叫ぶ原因は、まだある。甲高い金属音は、私がいちばん苦手なものだ。

　甲高い声もダメだった。音がするたびに、私はうなっていた。口を閉じながらうな

　っていたのは、「決して声を荒げてはいけない」という決まり事が徹底された家庭

　環境に育ったためで、心から泣き叫ぶことができず、耳鳴りを助長した。

　　また、耳の内側から響いてくる不気味な音も、私を長らく脅かしていた。大きく

　なっても不気味な音は消えず、小学校高学年のころ、妊婦の羊水超音波検査の音が

　それだと気づいたが、まだ不気味な音は、私の耳のそばで鳴るときがある。ボォウ

　ボォウとうなるように響く音のせいでいつも頭が混乱し、私は少しの物音でもヒス

　テリックに反応する性格になっていった。

　　常に騒々しい頭の中に、車の音や人の話し声が入り込んでくると、めまいが始ま

　る。天井も璧も床も回り、しだいに自分の方へ押し迫ってきているように見えた。

　叫ばなければ息が止まると思い、私は大声で泣き続けた。泣くこと自体が、パニッ

　クから回避できる唯一の手段だった。声は熱になり、喉を通り過ぎて、発散したと

　いう確かな感覚を体に与えてくれる。その後、パニック回避の「声」は自分をかむ

　ことに変わり、そして、クッション・パンチに落ち着いた。

　　成長とともに、許容できる音もいくつかは増えたが、それがなくなることはない。

　甲高い声が響くと、こめかみ付近の髪の毛を、突然引っこ抜かれるような痛みが走

　る。小さな私は、痛みの原因を知らないだけだった。

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　自閉症の子で、音に敏感で、それでパニックになる子がいる。

　そういう子にとっては、世界の音は、こんな風に聞こえているのかもしれない。

　泣くことだけが、唯一のそこから脱出する方法だ。

　自閉の子で、耳栓をするのが好きな子がいるのだが、その方が、気が散らないらしのだが、

藤家寛子は、耳の内側からも音が聞こえると言っている。

　また、甲高い声が響くと、髪の毛を突然引っこ抜かれるような「痛み」が走る。聴覚と痛み

が結びついている。

　聴覚が過敏になると、相当大変なんだなあ、と思わされると同時に、あまりにも感じ方が違

うので、愕然としてしまう。

　こういう感じ方を自閉症者が書いてくれない限りは、定型発達者の感覚からは、なかなか理

解されないことだと思う。本人は必死で対応しているのに、周囲からは、「変わった子」とし

か見なされないのではないだろうか。

(この項、了)