〜パニック〜

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　　何よりわたしの心を引き裂いたのは、わたしと一番心の通じ合っていた者が、恐

　怖にとらわれて泣き叫んだり、ヒステリーを起こしたりすることだった。その一番

　心の通じ合っていた者とは、弟だ。弟は、よくガラスを粉々に割った。その耳ざわ

　りな音も、我慢ならないほどいやだった。

　　わたしには、家の中は色彩の洪水のように見え、物も人もすごいスピードで流れ

　るように動いており、はっきりと輪郭をつかむことができないほどだった。それで

　もちゃんと行動することはできた。こうした状態は、ショック状態にある人にたと

　えることができるかもしれない。自分ではほとんど無意識であるのに、体は意外に

　きちんと動いて、機能しているというわけだ。わたしの目に映るものは、皆飛んで

　いた。色も、物も、人も、飛んでいた。ドアはばたんばたんと蹴られては消え、時

　には人々の顔も、同じように消えてゆく。人の姿はいつも一部分だけで浮遊してい

　て、頭のてっペんからつまさきまで「全部のそろった人間」は、どこにもいない。

　そしてわたしにとっては、人が暴力をふるわれるよりも、きれいな物が壊されるこ

　との方が、ずっと残酷な悲劇に思えた。

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　ドナ・ウィリアムスの記述も、「内側から見た自閉症」として、とても興味深いものが多

い。パニックになったときの、ドナの見え方は、すごいものだ。重度の自閉症と言っていいと

思われる。

　こういう人に、言葉が宿ったのは、すごいことだし、とても貴重な証言だと言える。

　もしも、こんなふうに世界が見えているとしたら、自閉症者にとって、この世界で生きてい

くことは、とても大変なことに違いない。

　ドナ・ウィリアムスが出している三冊の本は、ドナ・ウィリアムスが、長い時間をかけて、

自己の感覚と身体の統合を獲得していく長い物語として読むことが可能だ。