〜視覚化された時間〜

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　　時間を見積もるとき、ぼくの頭のなかには、テーブルの上を延びていくパン生地

　が浮かんでくる。テーブル自体が一時間分の長さだ。だからたとえば、三十分の散

　歩はどれくらいかというと、パン生地がテーブルのちょうど半分のところまで延び

　てくる。しかし十一時間はとてつもなく長く、とても想像できなかった。それで不

　安でしかたがなくなった。目をぎゅっと閉じ、それからゆっくりと目を開けて、気

　分が落ち着くまでじっと足元を見ていた。

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　時間のイメージとして、とても珍しいなと思ったので引用しておく。ダニエル･タメットの中

では、時間は、見事に視化されている。「テーブルの上を伸びていくパン生地」というのが面

白いが、本人はとても苦労して、時間を視覚化することに成功したのだと思う。

　ただ、待ち時間があまりにも長いと、そんなに長いテーブルがイメージできないために、難

しくなってしまう。

　僕たちの場合、普通、こんな風にして、時間の長さをイメージすることはないと思う。反対

に、時計を見ることに慣れ過ぎてしまって、時間に縛られている感じになっている。

　時間というものは、自閉症者にとって、とてもやっかいなものだ。目に見えないし、実感も

伴わないものだからだ。

　ちなみに、東田直樹くんにとっての、時間とは、こんな感じらしい。

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　　ずっと続いているのが時間です。だからこそはっきりとした区切りがなく、僕た

　ちは戸惑ってしまうのです。

　　時間の間隔がずれていたり、つかめなかったりするのはどうしてかと、みなさん

　は思われるでしょう。

　　僕たちにとって時間は、例えば、行ったことのない国を想像するくらい難しいこ

　となのです。

　　時間の経過は紙にも書けません。

　　時計の変化で時間が経ったことは分かりますが、実感として感じることができな

　いのが、僕たちには不安なのです。きっと、僕自身が自閉なので分かることなのだ

　と思います。

　　僕たちは怖いのです。自分がこの先どうなるのか、何をしでかすのか、心配で心

　配でしょうがないのです。自分で自分をコントロールできる人には、この感覚は分

　からないでしょう。

　　僕たちの１秒は果てしなく長く、僕たちの24時間は一瞬で終わってしまうものな

　のです。

　　場面としての時間しか記憶に残らない僕たちには、1秒も24時間もあまり違いは

　ありません。

　　いつも次の一瞬、自分が何をしているのか、それが不安なのです。

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　時間を視覚的にイメージすることは、とても難しい。

　また、僕たちには、美しい風景を見ていたらいつのまにか、たくさんの時間が過ぎていた、

とか。つまらない授業を受けていると、時間がたつのが遅い、とか、時間の伸び縮みする感覚

を体感することができる。自閉症者には、それも難しいものだと思われる。