〜「みんな水の中」〜

　「みんな水の中」と感じながら生きている僕にとって、現実はいつも夢に浸されて

　いて、完全に覚醒しきれない。僕が内側から眺める現実世界は、まるで水中にいる

　かのようにぼやけて揺らめいている。自閉スペクトラム症があると、定型発達者と

　のあいだに標準的な共感が働きにくく、自分と世界とのあいだに断絶感を覚える。

　注意欠如・多動症があると、いつも思考が多動状態にあるために、疲れて朦朧とし

　ている。発達障害にはいろいろな種類があるけれど、僕には発達性協調運動症も併

　発している。これは深刻な運動音痴や不器用のことだ。平衡感覚がなかなか取れな

　いため、いつも体のさばき方にふわふわとした印象が生まれる。さらに、僕には解

　離、つまり一部の現実の空想への脱落も発生している。これらの要素が融合して、

　僕はあらゆるものが水の中にあるかのような体感を得ているのだ。

　　　　　　　　　　　　〇

　横道誠という人は、僕は初めて読んだのだが、「みんな水の中」と感じながら生きているのだ

と言う。

　彼の感じている「現実世界」は、水の中のようにぼやけている。ＡＤＨＤのために、疲れてし

まい、意識が朦朧としてしまう。発達性協調障害で、身体も自在に動かすこともできないので、

身体の感覚が、ふわふわした感覚で生きている。

　さらに、解離もあるので、現実と切り離されている感じもある。

　これらの要素が融合して、現実の意識が存在している。

　ここまで細かく、微細に、自分の世界を内側から語った当事者の記述には、なかなかお目にか

かれないと思う。

　（この項、了）