〜「言葉は魔法」〜

　　つばさは、テレビのコマーシャルのようなパターン化した口調や繰り返しは覚え

　やすく、壊れたテープのように、気に入ったフレーズを意味もなく再生しています。

　　これも自閉症の子に多く見られる現象で、《エコラリア》といいます。

　　ある日、つばさはコマーシャルや歌の真似をするように、

　　「ジュースちょうだい」と、私の真似をしました。

　　家族みんなが大喜び。おまけに、つばさはジュース（ご褒美）を大盛りでもらえ

　ます。ことばは魔法です。あることばを言うと、欲しいものがもらえるということ

　に、つばさ自身びっくりしたと思います。

　　クレーン現象でのジュースの要求は、私に対してだけではないので、夫にも、祖

　母にも（子どもたちが病気をするたびに来てくれました）、同じようにしてもらう

　ようにお願いします。しばらくすると、お兄ちゃんも、見よう見まねでやってくれ

　るようになります。

　　つばさははじめて、意味のあることばを一つ獲得します。

　　　　　　　　〇

　つばさくんが初めて意味のある言葉を言った時、本人は意識していないが、本当にジュース

をもらえた。ことばを言うと、欲しいものがもらえるということに、つばさくんは、驚いた。

　ウィニコットは、乳幼児は、自分が魔法使いだと思っており、その全能感をたっぷり持たせ

てやるのが大切だと言っている。自分が要求すれば、望み通り、おっぱいが出てきたり、下の

世話をしてもらえる。「魔法使い」の段階を、ちゃんと通過させてやることが大切だ、と。

　行動療法ならば、これは、＜言葉⇒ご褒美⇒行動の強化＞というだけの問題になってしまい

「言葉が魔法である」という視点は出てこないだろう。

　だが、つばさくんの心の成長にとって、＜言葉が魔法である＞段階を通過できたこと

は、とても重要なポイントになったのではないだろうか。

（この項、了）