〜「おねえちゃんで、けんか」〜

　　きゃりーぱみゅぱみゅ…歌います。「つけまつける」ほか…めちゃ音痴ですが、

　ノリノリで歌います！

　車に乗る時、毎回、姉とＢＧＭの曲の取り合いです。

　ついこの間も…姉に前の席を取られたこぼんちゃん…

　「きゃりーぱみゅぱみゅ、かけないよ」（かけて…やろ？）

　「○時○分なったらきゃリーぱみゅばみゅかけようね」（それはあってる）

　「じゅんばんです」（それもいいよ）

　　車内で立席…ガチャガチャ（無理矢理、曲をかえようとしている…それはあかん

　やろ）

　姉…「ん〜もおお〜！！　はらたつ〜！△＊×××」

　（車中‥プチ…シーン……サイレント）こぼんちゃんもサイレント…

　（中3のあんたも大人げない…まあ、受験でイラついているのだろう…）

　　その日のこぼんちゃんの宿題の日記には…

　　『今日はとんぼ池公園にいきました。昼ごはんを食べました。

　　しゃぼんだまをしました。

　　次につたやに行きました。ラーメン屋さんに行きました。

　　ラーメンをたべました。

　　おねえちゃんで、けんかをしました。たのしかったです』

　　おねえちゃん「で」ではなく「と」だね。こぼんちゃん。で、楽しかったんかい！

　でも、これだけの長文が書けるようになったこぼんちゃんです。

　　　　　　　　　〇

　こぼんちゃんは自閉症だが、お母さんとも、お姉さんともうまく関係が作れていて、いい本

だ。これは、お姉ちゃんとのやりとりなのだが、最後の日記の文章が興味深い。

　　『今日はとんぼ池公園にいきました。昼ごはんを食べました。

　　しゃぼんだまをしました。

　　次につたやに行きました。ラーメン屋さんに行きました。

　　ラーメンをたべました。

　　おねえちゃんで、けんかをしました。たのしかったです』

　文章自体は、とても自閉症らしい文章だが、興味深かったのは、

　「おねえちゃんで、けんかをしました」

　というところだ。

　普通は、お母さんの言う通り、「おねえちゃんと、けんかをしました」と言うところだ。

　僕の考え方では、自閉っ子は、世界の事象と、自分自身とを「切り離し」て考えることが難し

い。だから、すべての事象を、自分の論理で説明しようとする。

　ニキ・リンコは、

　「私は、飛行機を落とさない名人だ」

　と言っている。

　もちろん、普通では使わない言葉使いだ。

　ニキ・リンコの論理は、こうだ。

　飛行機は落ちる。

　でも、私が乗る飛行機は落ちたことがない。

　だから、私は飛行機を落とさない名人だ、と言うことになる。

　普通は、こんな考え方をしない。

　普通は、対象と自分を切り離して考えるからだ。

　これは、＜飛行機が落ちることと、自分が乗ることは、無関係だ＞と考えることからくる

世界観だ。

　ニキ・リンコの言葉は、ニキ・リンコの世界観では、論理的なのだ。

　「おねえちゃんで、けんかをしました」は、言葉使いが間違っている、と言うよりは、こぼん

ちゃんが、「おねえちゃん」を切り離して考えていないことから来ているように見える。

　もちろん、遥かな昔の人間は、こぼんちゃんのように考えることが普通であった段階があった

と僕は思っている。

　（この項、了）