〜「居心地の良い場所」〜

　　勉強の方は順調だったが、私には当時、友達は殆どいなかった。青春を謳歌する

　時間の殆どを勉強、もしくは音楽に注いでいた。そのため私は、いつも孤独感を味

　わった。一時期は、唯一日常に会話をしていた知人からも、何らかの理由で無視を

　されるようになった。原因は、その当時の私には知る由もなかった。

　　そんな時、私はひとり、ぶらぶらと夜の街を放浪した。ある時散歩をしていると、

　ノーマン・ヒルと呼ばれる中世の遺跡の残る丘で、ケンブリッジの街を見渡すこと

　ができた。「私はこの街に住んでいる」ということが実感でき、気分が随分と楽に

　なった。それ以来、辛い時はこの丘に登ることにした。

　　自分にとって居心地の良い場所をひとつでも見つけられたことは、私にとって大

　きな支えとなった。更に、自分が落ち着ける場所を発見したことは、自分の好みの

　発見にもつながっていった。

　　　　　　　　　　　〇

　藤堂高直は、ディスレクシアだったが、イギリスに行って、ずいぶんと楽になることができ

た。だが、勉強は順調でも、一時期、ほとんど友達がいなかったと言う。

　ひとりぼっちになった時、ケンブリッジの街を見渡すことができる場所を見つけ、そこで随分

と楽になることができた。

　たとえ、孤独であっても、自分の心の＜居心地の良い場所＞を、ひとつでも持っているという

ことは、辛い時期も耐えられるし、とてもいいことなのだと藤堂高直は、告げている。

　僕も、まったく賛成する。

　＜情緒の安定＞が課題の発達障害の子を、たくさん見てきたからだ。

　（この項、了）