<内側から見た自閉症>

〜イド・ケダー〜

『自閉症のぼくが「ありがとう」を言えるまで』

〜「光」の美しさ〜

  水に日が当たっているところ。

  点滅している光。

  そうした調和のとれた光景にぼくは心惹かれる。

  こういうものは感覚を明るくしてくれる。あまりにも芸術的なので、思わず立ち

 止まって見とれてしまう。

  みんなにはきっと、ぼくに見えているものが見えないんだろう。

  だから、どうしてこの子はそういう光景をじっと見つめ、手をばたばたしている

 んだろうと思われてしまう。

  だけど、ぼくには色と形が織りなすパターンが見えるのだ。

  これが見える人で、光の細部の美しさに感動しない人はいないだろう。

        〇

 細部に焦点が合う視覚で見ると、光の世界はとても美しいらしい。こういう記述を書き留めて

いる自閉症当事者は多い。

 みんなにはきっと、ぼくに見えているものが見えないんだろう。

 は、その通りなのだろう、

 散歩をして、同じ風景を見ているのに、自閉っ子が突然立ち止まって何かを見ている光景を、

今まで何度となく見てきた。彼らにも、きれいな光の風景が見えていたり、風や鳥の囁きが聞こ

えていたのだろう。

 彼らが、幻覚を見ているのではない。

 それは僕たち(定型発達者)が、失ってしまった鮮明な感覚の世界なのだ。

 人間は、その代償として、抽象的な思考の世界を手にした。どちらかが優れているとか、劣っ

ているとかいう問題ではない。

(この項、了)

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