シートンは、「十戒の博物学」という論文の中で、モーゼの十戒を動物にもあてはまるので

はないか、と、ひとつひとつ検証している。「聖書に記された十戒は、ただ単に、人間のた

めにのみ定められたものではなく、すべての高等動物のための、基本的な定めである。」

というわけだ。

　僕は、モーゼの十戒については、ほとんど知らないし、動物の研究についてもほとんど知ら

ないのだが、こういう試みは、どうなのだろう。

　普通の「動物学者」では、「バカバカしいこと」として、最初から発想しない考えなのでは

ないだろうか。でも、シートンは、大真面目に考えていると思う。

　たくさんの動物を観察し、同時に、動物を内側から見る視点を持っているシートンだからこ

そ発想できたことではないだろうか。

　少なくとも、僕には傾聴に値するものだと思われた。

　モーゼの十戒は、以下の通りだ。

　　　　　　　　　　　○

　一、あなたは、わたしのほかに、なにものをも神としてはならない。

　二、あなたは、自分のために、刻んだ像をつくってはならない。上は天にあるもの、

　　下は地にあるもの、また地の下の水の中にあるものの、どんな形をも造ってはな

　　らない。それにひれ伏してはならない。それに仕えてはならない。あなたの神、

　　主であるわたしは、ねたむ神であるから、わたしを憎むものには、父の罪を子に

　　報いて、三代、四代におよぼし、わたしを愛し、わたしの戒めを守るものには、

　　恵みをほどこして、千代にいたるであろう。

　三、あなたは、あなたの神、主の名を、みだりにとなえてはならない。主はみ名を

　　みだりにとなえるものを、罰しないではおかないであろう。

　四、安息日をおぼえて、これを聖とせよ。六日の間働いて、あなたのすべてのわざ

　　をなせ。七日目はあなたの神、主の安息であるから、なんのわざもしてはならな

　　い。あなたもあなたのむすこ、娘、しもべ、はしため、家畜、またあなたの門の

　　うちにいる他国の人もそうである。主は六日のうちに、天と地と海と、その中の

　　すべてのものを造って、七日目に休まれたからである。それで主は安息日を祝福

　　して聖とされた。

　五、あなたの父と母を敬え。これは、あなたの神、主が賜わる地で、あなたが長く

　　生きるためである。

　六、あなたは、殺してはならない。

　七、あなたは、姦淫してはならない。

　八、あなたは、盗んではならない。

　九、あなたは、隣人について、偽証してはならない。

　十、あなたは、隣人の家をむさぼってはならない。隣人の妻、はしため、牛、ろば、

　　またすべての隣人のものを、むさぼってはならない。

　　　　　　　　　　○

　まず、シートンは、モーゼの十戒めを、傾向として二種類に分けている。「一から四」ま

で、と、「五から十」まで、だ。

　「一から四」までは、主に、神と人間の「間」の関係に属した「約束（契約）」であり、

「五から十」までは、主に、人間と人間の「間」の関係に属した「約束（契約）」だ。

　この分け方自体は、一般的に言われていることらしいのだが、僕は驚いた。

　『古事記』の「天つ罪」「国つ罪」に似ているなと思ったからだ。「一から四」までは、

「天つ罪」だし、「五から十」は、「国つ罪」に対応していると思われる。そうか。西洋でも

こういうわけ方はされているんだなと感心した。

　シートンは、まず「五から十」の中で、高等動物の行動で対応するものはないか、検討を始

めている。それは妥当な考え方だと思う。

（この項、つづく）