主人公のアッシュは、十七歳。ニューヨークの暗黒街で、少年たちを束ねている。

　ＩＱは２００もあり、各種の新聞のコラムにも目を通し、パソコンも自在に操る。格闘も抜

群だし、銃の腕もプロ並みだ。小さい頃、マフィアのボス・ゴルツィネに拾われ、児童ポルノ

にも出させられたことがあるが、アッシュは傷つきながらも、自分の力だけを頼りにして生き

ている。

　ふとしたことから、「バナナフィシュ」という薬の存在に気づき、ゴルツィネと対立するよ

うになる。自分の兄が廃人同様になった時に、口にした最後の言葉が、「バナナフィッシュ」

だったからだ。

　ゴルツィネの罠にかかり、監獄に収容されるアッシュ。凶悪犯たちと、ゴルツィネの手下た

ちに命を狙われながら、生き延びて、復讐の時を待っている。一度は強姦された囚人に対し

て、二度目は瀕死の重傷を負わせる。

　監獄内の唯一の協力者、ロボが聞く。

　その時のセリフ。

　　　　　　　　　　○

　ロボ　　　わかるだろ…ここじゃ１度ああいう目にあったヤツは…

　　　　　　軽蔑されるんだよ

　アッシュ　軽蔑？

　　　　　　ふん

　　　　　　笑わせるぜ…

　　　　　　「目クソ鼻クソを笑う」ってヤツだな　

　断言してもいいと思うが、こんなセリフは、かつて一度も、マンガのヒーローがしゃべった

ことはなかった。（※しかも、発表されたのは、少女マンガ誌だった。）

　それまでの、ヒーローは、「クズども」に軽蔑されたら、確実に怒っていた。

　アッシュは最初から相手にしていない。　

　それまでの少年マンガの主人公は、正義感が強く、しかし、単細胞だった。悪者の方が、狡

知にたけていて、すぐに悪者の罠に落ちていく、というパターンだった。もちろん、主人公の

方が頭が良かったら、ストーリーが展開しないだろう。

　アッシュは、そのパターンを最初に打ち砕いたヒーローだ。頭も良く、格闘もでき、銃も使

える。義理にも厚い。

　それならどうして、そんなヒーローが罠に落ちるのか。

　アッシュは基本的に、一匹狼で孤独であり、マフィアは知恵を使いながら、組織で追いこん

でくるからだし、義理にも厚いアッシュの弱点をよく知っているからだ。アッシュは、罠と知

りながらも、自分で自分を窮地に追いやってしまう。

　その抜群の設定と構成が、アッシュの孤独を引き立たせ、作品を立体化させている。

　見事だ。

　（この項、了）