この概念はひじょうに重要だ。とりわけ興味深いのは、ピダハンの病を理解する手

　掛かりになるという点だ。それを知ったのは比較的早い段階で、コーホイビイーイヒ

　ーアイと娘のさイービイーについて話していたときだった。わたしはイービイーがな

　ぜマラリアにかかったのかを説明しようとしていた。まず蚊と血液のことから話しは

　じめた。

　「違う違う」コーホイは話の途中で口をはさんできた。「イービイーが病気なのは草

　を踏んだからだ」

　「なんだって？　わたしも葉を踏んだけれど、病気ではないよ」わたしは答えたが、

　コーホイがイービイーのマラリアをどう説明しようとしているのか、見当もつかなか

　った。

　「上から来た葉だ」コーホイはそう言って、謎を深めた。

　「上から来た葉とは？」

　「上のビギーの血のないものが下のビギーに降りてきて葉をおいていった。ピダハン

　が上から来たビギーを踏むと病気になる。ビギーは葉に似ている。だが人を病気にす

　る」

　「上から来たビギーだとどうしてわかるんだ？」

　「踏んだら痛気になるからだ」

　　わたしはコーホイにこのことをもっと尋ね、さらに別の何人かとも話した。わかっ

　たのは、ピダハンにとって宇宙はスポンジを重ねたケーキのようなもので、それぞれ

　の層はビギーと呼ばれる境界で区切られている。空の上にも世界があり、地面の下に

　も世界がある。この見方はまったく同じではないが、ヤノマミの世界観と似ていると

　思った。彼らも宇宙は階層になっていると信じている。

　　　　　　　　　○

　ピダハンは、マラリアにかかったことを、蚊と血液からの科学的な説明では、まったく説得さ

れない。

　世界観が、まったく違っているからだ。

　ピダハンにとって、世界は、三つの層から成り立っている。現世と、その上の層の世界と下の

層の世界だ。

　病気になるのは、「上から来た葉」を踏むからだ。

　普通の葉と「上から来た葉」は、よく似ているから踏んでしまう。

　どうして「上から来た葉」だとわかるかと言えば、「病気になる」からだ。

　この理屈は、僕たちには、まったく不可解だが、ピダハンからすれば、「蚊」と「血液」が病

気に関係しているとは、まったく考えられないに違いない。

　これらの世界観は、日本の『古事記』の世界観にも似ている。

　『古事記』にも、「天上の世界」が存在するし、イザナギノミコトは、イザナミノミコトを追

って、「地下の世界」に行っている。

　（この項、了）