もしわたしたちが、核兵器の保有量と質を頂点とする武装力が物を言う世界の現

　状と将来を肯定する力の論理の内側に滑りこむことが、現実的な国際関係の実相に

　叶っていると一旦かんがえてしまったら、二番手の核保有国であるフランスや中国

　が一番手の保有国になろう（伍しよう）として、核爆発の実験をやることも肯定し

　なければならなくなるはずだ。また核兵器非保有国である国（例えば北朝鮮）が核

　保有国の仲間に入りたいための核廃棄物処理装置を運転させようとするモチーフも

　肯定されなければならない。君たち日本政府の責任者や、それに追従する知識人た

　ちは自衛隊合憲と宣明し、またその宣明を黙って承認したり肯定したりする方にい

　つの間にか変身してしまった。このことが何を意味するのか知りたくないし、考え

　たくないというのなら、わたしが言ってあげる。それは核武装力を頂点とする力の

　論理の内部に日本国をそっと滑りこませてしまったことを意味している。このこと

　に気がついているのなら、中江要介のいうようにフランスや中国の「核実験」くら

　いでがたがたいうべきではない。ひそかに恥かしそうな表情で、この世界史の現状

　を否定すべきなのだ。また気がついていないでケロリとした感じならば、すこしは

　本気で核兵器問題をかんがえてみる瞬間があっていいはずだとおもう。

　　わたし自身の主張はすこしも変らない。憲法第九条の非戦非武装の明文を盾にし

　て具体的な核兵器廃絶案を整備して国際間に持ち出すべきだとおもう。わたしはあ

　くまでも武装力の論理の外にあることが現実的で、且つ強い立場にあるし、これか

　ら将来もそうだということを疑っていない。またフランスや中国がどんなに核兵器

　の実験と保有量を強化しても、それぞれ別な理由で、近い将来強大国になることな

　どありえないとおもう。フランスも中国も無駄な馬鹿気たことを正気でやっている。

　とんでもないことだ。

　　　　　　　　　　〇

　吉本隆明のこの発言は、１９９５年。

　フランスと中国が、核実験を行った時のものだ。

　吉本隆明のこの認識は、現在でも十分に通用するものだし、事態はさらに進行していると言

っていい。

　日本は、進んで、憲法九条を無効にして、拡大解釈をして、世界の「武装力の論理」の内側

に入ろうとしている。入ったところで、アメリカの「ポチ」になって「力の論理」の世界を右

往左往するだけにちがいない。

　僕にできることは、「力の論理」の外で、考え、書き続けることだけだ。

　自閉っ子、知的な遅れのある子は、いつも「力の論理」の外にいる存在だ。

　「力の論理」よりも、より深く、より豊穣な人間の世界が描きうることを、生徒たちが教え

てくれたからだ。この場所を、僕が動くことはない。　

　（この項、了）