社会主義政党という場合の社会主義ということですが、さまざまな条件が考えら

　れるなかで、最小限三つの条件をあげるとイメージがつくれます。一つは、国家が

　開かれていることです。もう一つは、国軍をもたないことです。もう一つは、個々

　の住民大衆にとって桎梏、抑圧とならないことを条件にして、また個々の人で処理

　したら不利益だということに限って、生産手段を社会化してあることです。この三

　つの条件がそろっていれば社会主義といえると思います。

　　国家を開くということを説明しますと、なくしてしまえば国家が一番開かれるわ

　けですが、そう簡単になくならないということでしたら、住民大衆の無記名直接投

　票で政府はいつでもリコールできる体制−−体制といっても法律でいいわけですけ

　れども、それをつくってあれば、国家は大体半開きに開くと思います。もちろん国

　家間では国境とか国家エゴイズムができるだけ開かれていることです。それがさし

　あたって温和な条件だと思います。

　　この三つの条件があれば社会主義といえるわけですが、皆さんがすぐお気付きに

　なるように、社会主義というのは地球上にまだ実現されたことがないわけです。い

　まの条件のうちどこか一点か二点欠けていたり、よけいなものがあったり、それか

　ら条件は合ってもやり方が下手くそだったりとか、さまざまな理由は挙げられます

　が、このたった三つの条件を具現した国家は、いまでも世界に存在しません。もち

　ろん日本社会党もそうじゃないです。社会主義政党といってきましたけれども、ほ

　んとはそうじゃないと思います。そういう言い方をすれば、いまある地球上の社会

　主義国家は、国家社会主義政党の政府で成っていると思います。国家社会主義政党

　というのは、時代、時代ですぐにファシズムに移行できる政党だと思います。

　　でも、さまざまな条件のうち、最小限この三つの条件がないと社会主義といえな

　いということはとても明らかなことだと思います。そのなかで日本国は現在の連立

　の政府のもとでも唯一実現していることは、国軍をもたないという条項です。これ

　だけは憲法第九条が保障しています。これだけは現在のところ世界に冠たる条項で

　して、どこにも実現されていなくて、日本国だけがいま実現している条項です。だ

　けど、あとの二つは実現されていないわけです。また社会党がいままでやってきた

　やり方でも、共産党がやってきたやり方でも、それは実現されないでしょう。でも

　最小限その三つが必要なのだということが重要だと思います。

　　　　　　　　　　　○

　これについては、僕には付け加えられることがないのだが、吉本隆明のとても見事で、重要

な発言だと思うので、ここに書き留めておくことにする。

　「社会主義」の条件は三つだ。

　ひとつは、国家が＜開いて＞いること。国民の無記名直接投票で、政府がいつでもリコール

できるようになっていること。

　もうひとつは、国軍をもたないこと。

　三つ目は、個々にとって不利益だと言えるところに限って、生産手段を国有化すること。

　吉本隆明が、どこかで言っていた言い方を借りれば、この条件が、荒唐無稽で、空想的に見

えるとすれば、それは、現在の状況では、それだけ理想に近づくのが程遠い、ということを表

している。

　日本でも、程遠いと言うべきだし、こんな理念を持っている政党も存在していない。

　確かに日本は、憲法九条によって、二番目の条件を満たしているが、現在の憲法「改正」の

動きは、自衛隊の国軍化を目指していると言われている。

　そういう意味では、国民にとって、「理想」と言える状態には、ますます程遠くなっている

と言わざるをえない。

　僕にできることは、ただ未知に向かって、＜書く＞ことだけだ。

　（この項、了）