別の実験では、進化心理学者のジェフリー・ミラーが、ストリップクラブのラッ

　プダンサー（訳注服を脱ぎながら、客の膝の上で踊る）たちの稼ぎを記録すること

　によって、男性にとって女性にどれだけ性的魅力かあるかを数量化した。そしてそ

　れがダンサーたちの月経周期でどう変化するかを追跡した。結果的に、ダンサーが

　排卵中（妊娠できるとき）に男性が払ったチップは、生理中（妊娠できないとき）

　の二倍だった。しかし妙なことに、男性は月経周期にともなう生物学的変化、すな

　わちダンサーが排卵中のとき、エストロゲンの急増によって容姿が徴妙に変わり、

　顔立ちが左右対称に、肌が柔らかく、ウェストが細くなることに、意識レベルで気

　づいてはいなかった。しかしそれでも男性たちは、自覚にのぼらないレーダーによ

　って、これらの妊娠能力の手がかりを検知していたのだ。

　　この種の実験は、脳の働き方に関する基本的なことを明らかにしている。脳の仕

　事は世界についての情報を集めて、あなたの行動を適切に導くことだ。あなたの意

　識がかかわっているかどうかは関係ない。そしてたいてい、意識はかかわっていな

　い。通常、あなたはあなたのために行なわれている意思決定に気づいていない。

　　　　　　　　　〇

　ストリップクラブのダンサーたちに対して、排卵中に男性が払ったチップは、生理中に払っ

たチップの二倍だったと言う。もちろん、意識として、男性が「生理中」かそうでないか、を

見抜くことはできなかっただろう。だが、それでも、二倍のチップが払われた、ということ

は、何らかの形で、男性は、排卵中の女性と生理中の女性を無意識のうちに＜見分けて＞いる

と考えられる、と。

　僕がすぐに思い出したのは、共感覚者の岩崎純一は、排卵中の女性には、色で見分けること

ができる、と書いていたことだ。

　共感覚の能力に、こういうことがあるのだとしたら、昔の人は、もっと感覚的に女性が、排

卵中か、そうでないかを、見分けることができていた、と言えるのではないだろうか。

　共感覚を失った現代人は、無意識で「見分ける」ことになってしまった。

　このことは、共感覚が、「意識」以前の能力だったことを暗示しているのかもしれない。

　岩崎純一の能力と、無矛盾だと言えるのではないだろうか。　

（この項、了）