泣く理由には、四種類あるといえます。つまり満足、苦痛、怒り、悲嘆という四

　つの理由をあげることができます。私のいわんとしていることは、実際にはごくあ

　りふれた分かりきったことや、赤ん坊をもっているお母さん方なら自然に知ってい

　るようなことであり、ただ言葉でそれをどのように表現したらよいのか、通常は考

　えようとしないだけです。

　　私のいわんとしていることは、次のようなことに過ぎないのです。つまり、赤ん

　坊の泣くのは肺の訓練をしていたり（満足）、苦痛の信号であったり（苦痛）、怒

　りの表現であったり（激怒）、あるいは悲しみの歌であったり、（悲嘆）、という

　ようなことの何れかを赤ん坊が感じているのだということなのです。赤ん坊が満足

　や快感のために泣くということをお話すると、あなた方は奇妙に思うことでしょう。

　というのは、赤ん坊が泣く時には何時でもある程度の苦痛を被っているに違いない

　と誰もが思うからです。しかし私は、このことをまず第一にお話ししなければなら

　ないと考えているのです。泣くことは、いろいろな身体器官の訓練になるので、泣

　くことのなかに快感があるということを認識しなければなりません。したがってほ

　どほどに泣いている時の快感は、時として赤ん坊にとって満足なものだといえるで

　しょう。だからといって泣くことが少ないからいけないということもないでしょう。

　　　　　　　　〇

　なるほど。ウィニコットの言う通り、通常は、赤ちゃんが泣いていることに、どんな意味が

あるのか、あまり真剣に考えてはいない。僕も、言われてみて、初めて考えさせられた。

　ウィニコットによれば、赤ちゃんにとって、泣くことは、四種類の意味があると言う。

　（満足）（苦痛）（激怒）（悲嘆）の四つがあると！

　同じ「泣く」という行為の中に、四種類の感情が込められている。

　「泣く」ということは、肺の機能訓練という意味もあるから、そういう意味では、「泣く」

ことで満足を得ている。

　しかも、「満足」と「苦痛」のように、正反対の感情も入っていると言う。言われてみれば

確かにその通りだ。母親なら、この四種類の泣き声を直感的に区別できるだろう。

　この四種類の相反する感情が複雑にブレンドされて、赤ん坊が泣きだす。

　母親の対応が、ここに、「愛情」から「不満」「不機嫌」までの幅を持って対応することが

ありえるから、泣くことで赤ん坊が感じる感情は、とても複雑な織物のように心に刻まれてい

くことになるだろう。

（この項、了）