現代の身体医は、くる病の発生予防について、また赤ん坊が出生時に淋菌に感染

　すると全盲になりやすいので、その予防について、一般に感染すると致命的となり

　やすい結核性髄膜炎を予防するために結核に感染している牛のミルクを飲むことの

　危険性について、現在では見られなくなった壊血病などについて、十分理解してい

　ます。今や医師の熟練によって身体疾患や障害は極めて少なくなりました。そこで

　どんな母親でも直面する心理学的問題をできるだけ正確に述べることが、主として

　情緒面に関心をよせている私たち研究者にとって差し迫った急務となっているので

　す。

　　生まれたばかりの赤ん坊をかかえている母親が直面する心理学的な問題を正確に

　述べることは、もちろんまだできませんが、努力して話してみたいと思います。お

　母さん方は、私の間違っていることを訂正したり、言い残したことを付け加えるこ

　とで私と一緒に考えて下さい。

　　私はその機会をもちたいと思っています。母親が普通に健康で夫に支えられ普通

　に耐えることのできる家庭生活を営み、赤ん坊が健康な状態でちゃんと発達してい

　る場合には、問題はきわめて簡単です。このような場合、乳児期における哺乳は、

　二人の人間関係において重要なことのほんの一部なのです。母子の二人は、お互い

　に驚くほど強い愛の絆によって結ばれようとしており、重大な情緒的な危機が引き

　起される前に自然にお互いを知るようになるに違いないのです。

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　なるほど。現代では、赤ん坊の身体的な問題の知識は随分と向上してきた。だが、結局、そ

の反面として、母親の心理的な面を正確に述べるという問題が出現してきた。母親の心理的な

問題を正確に述べることができない、ということは、乳児の心理的な面も述べることができな

いことを意味している。

　これは確かに、現代では重要な問題になってきていると思われる。

　「哺乳の初期」には、どのような重要な意味があるのか。

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　　ごく自然の哺乳とは赤ん坊が欲しがる時に与え、止めたいと思う時に止める授乳

　法である、と私は言いたいのです。これが基本なのです。赤ん坊は、このことでま

　たこのことのみで母親と妥協し始めることができるのです。最初の妥協は、規則正

　しい信煩することのできる授乳を、例えば三時間毎の授乳を受け入れることです。

　三時間おきの授乳は母親にとっては好都合です。しかし赤ん坊が三時間おきに規則

　正しく空腹になるように調整されている限りでは、赤ん坊にとっても自分の欲求が

　充足されるように感じられるでしょうが、この間隔がその子どもにとって長過ぎる

　場合には、赤ん坊の苦痛は続きます。信頼を回復する最も早い方法は、新しい間隔

　が必要になった時、赤ん坊が耐えられるような規則正しい適当なタイミングに戻し

　ながら授乳をすることです。

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　赤ん坊が欲しがる時に与え、止めたいと思う時に止める授乳が、一番自然な哺乳の方法だと

ウィニコットは言う。

　定時の哺乳ではなく、赤ん坊が欲しいと思う時に、哺乳をし、止めたいときに止めてあげる

ことができるためには、母親が赤ん坊の心の状態を＜察知＞できていなければならないはず

だ。

　大昔の普通の母親は、こういうことは＜察知＞できていたに違いない。大昔の母親は、医学

的な知識はなかっただろうが、わが子の状態を＜察知＞し、直観的に対処する能力は、強く持

っていたに違いない。そおいう授乳ができているならば、母子関係は、十分に豊かに形成され

ると、ウィニコットは確信している。

（この項、了）