リサーチしながら現代へ向かっていくと、一つ明らかなことは、吃音は舌や喉に

　原因があるのではなく、幼少期の躾の問題でもないと専門家たちも考えているが、

　吃音の本質については十分にわかっていないということである。世界のどこにも存

　在し、歴史的に古い起源をもつにも関わらず、吃音は複数の原因を有する、謎に満

　ちた症状であり続けているようだ。私が見つけた研究の多くは、吃音を多因性の障

　害とみなしながら、そこから先へは進めないようだった。さらに私は、最先端の研

　究に取り組む人たちがいることを知った。彼らの研究は、吃音を脳障害の一種とす

　る考えを支持するものである。

　　カリフォルニアでは、ジエラルド・マグワイアー博士という医師が、吃音の複雑

　な神経経路について検討しており、また、医学的な治療について研究している。こ

　れまでの人生を通して吃り続けてきたマグワイアーは、一九九五年に、吃音者の脳

　を調べるために画像をスキャンする「陽電子放出断層撮影法」を使用した最初の医

　療チームの一員だった。彼の研究によって証明されたのは、吃音は、通常、言語活

　動をつかさどる部位である脳の左半球の機能が著しく低いことに関係しているとい

　うことである。マグワイアーの研究は、なぜ吃音者の中では男性が女性の四倍もい

　るのかということを、明確に説明してくれる。「女性は男性よりも、脳の右半球が

　強い傾向にあります。右脳が優位になりがちです」。彼は言う。「そのため、女児

　に症状が見られるようになると、時の経過と共にその子の右半球が左半球を補うこ

　とになります」

　　　　　　　　○

　　吃音は脳の複雑な可塑性（柔軟性）の発達に包まれていると知り、安心した。吃

　音は諸々の精神的影響を受けるとはいえ、心理的な障害ではなく複雑な生物学的症

　状だと聞いてほっとした。その根底にあるのは、吃音は私自身のせいではなく、親

　のせいでもなく、誰のせいでもないとわかったことによる安堵である。私はただ神

　経構造的に弱い部分を持って生まれてきたというだけのことであり、造物主は私に

　何の苦労もなく話せる能力を与えはしなかったということである。

　　　　　　　　○

　「吃音」という現象は、現代に至るまで謎に満ちており、まだほとんど解明されていないと

いうことを初めて知った。もっと解明されていると思っていた。

　引用から見れば、「吃音は舌や喉に原因があるのではなく、幼少期の躾の問題でもない」。

心理的な障害の面はあるが、遺伝や脳の神経的なものに起因している可能性が高い。

　吃音者は、左脳（言語脳）の活動レベルが著しく低いのだと言う。それは、男性の方が女性

よりも人数が多いのは、女性は右脳優位が多い（右脳が左脳の活動をフォローする）からだと

いうことと対応しているという。

　それは、ＡＤＨＤなどが、興味のない活動には、脳の活動レベルが極端に低下するのと似て

いると言えるかもしれない。

　そういうことが解明されて、自閉症スペクトラムのように、吃音それ自体は「個人の責任」

（やる気・努力）の問題ではないと判明することで、たくさんの人が救われるに違いない。

　吃音の原因の解明は、まだまだだとしても、発達障害と同じで、個人が根拠のない偏見から

解放されるのは、とてもいいことだ。

　（この項、了）