娘のマリオンは、生まれたとき、わたしのことを怒っているように見えました。

　わたしがそういうと、産科の先生も看護師さんも笑うだけでした。「赤ちゃんには

　感情なんかありませんよ。きっとガスが溜まっていたせいでしょう」なんていうん

　です。わたしはバーニー先生の本を読むまで、このことをすっかり忘れていました。

　マリオンは今一二歳です。わたしはふと、そうだ、この子に聞いてみよう、と思い

　ました。

　「ねえマリオン、生まれたとき、怒ってなかった？」

　「怒ってたわよ」

　「どうして？」

　　すると、マリオンはこう答えたのです。『だってママ、男の子をほしがってたん

　だもの』

　　わたしはびっくりしました。娘のいったことは本当です。妊娠中、わたしは男の

　子がほしくてほしくて、そのためにお祈りまでしていたのですから。なぜかはわか

　りません。でも、とにかく男の子がほしかったのです。産科の先生から、お腹の子

　は女の子ですよ、といわれたときは、本当にがっかりでした。でも、それはそのと

　きだけのこと。数時間のうちに、わたしはお腹の娘を愛するようになっていました。

　だから、娘がわたしの気持ちを、生まれたあとで読みとったのだとは思えません。

　　そして、今回、わたしが自分の愚かさを認めたとき、驚くべきことがふたたび起

　こったのです。わたしは娘が小さいころからずっと、娘とのあいだに見えない壁が

　あるのを感じていました。それが何だったのかはわかりません。娘は手のかからな

　い子でしたから。でも、わたしがどうがんばっても、娘の心に入っていけない感じ

　がありました。それが驚いたことに、おたがいの心のうちを包み隠さず話し合った

　とたん、壁が消えてしまったのです。わたしは今、やっと娘との��きずな�≠�感じ

　ています。

　　　　　　　　　○

　マリオンは生まれたとき、母親が男の子を欲しがっているのを「知って」、怒っていたと言

う。これも、科学的には確認の取りようがないことだろう。

　単純に考えると、「母親が男の子を欲しがっている」という微細な意味までは、胎児にはわ

からないのではないだろうか。

　だが、少なくとも、母親が医者からお腹の子が、女の子だと知らされたときの「ガッカリ」

した感情やニュアンスは、胎児の能力として十分に感じ取ることができたに違いない。

　（この項、了）