と、アポロは「いいでしょう。じゃあ、私は一五品目を暗唱していきます。リスト と突き合わせてください」。アポロが頭の中のリストを読み上げるあいだ、スサナ は彼が紙に書いたリストを見られないように注意した。「１番はテニスボール、２ 番はルーレット……」。彼の記憶は完壁だった。彼は今度はリストを逆の順番で列 挙していった。次に全体から七品目をランダムに消去し、消去するものの数字だけ を大きな声で言うようにスサナに依頼した。七個のものを消去するとき、スサナは リストがアポロの視野に入らないよう気をつけた。アポロは残りの消去されなかっ たものを順番に挙げていった。 アポロがやってみせた芸当は、記憶術が有効であるという明白できわめて印象的 な証しだった。私たちはこれがもつ意味に愕然とした。「いったいどうやったので すか」。アポロは秘訣は人間の記憶力を大幅に強化する簡単なトリックにあると説 明した。「私がしたのはただ『物体と数字のペア』をその物体のイメージと関連づ けただけです。けれども、本当のトリックは、私には各数字を表わす標準的な物体 のリストがすでにあったことです。それは音が似た物体か、数字の同音異義語にも とづいています。たとえば、数字の１（ワン）は、『ワンド（魔法の杖）』に音が 似通っています。ですから、物体と数字を関連づける際に、私は実際には魔法の杖 と選ばれた物体を関連づけているわけです。このとき、私は魔法の杖をもったテニ スボールのイメージを頭の中に焼きつけます。リストを暗唱するときには、各数字 を（降順や昇順に）並べ、その数字に自分がいつも関連させている同音異義語を思 い出し、それを使ってスサナのリストにある関連する物体を思い出します。リスト に列挙された物体や数字を消すには、スサナが物体と数字の対をリストから消し去 るときに、その『物体と数字のペア』が壊れるところをイメージします。魔法の杖 を振り回すテニスボールの場合には、私はこの二つのものが火にかけられ、テニス ボールが内側から爆発するさまを頭に思い浮かべます。このようなことを消去のた びに行ないました。そうすれば、いつものようにリストを見ていけば、どの数字が 消去されたかほ一目瞭然です。なぜなら、消去されたものは頭の中でさまざまな方 法で破壊されているからです」 ○ ここでアポロが使っている「驚異の暗記法」は、驚異であるには違いないのだが、確実に言 えることは、「鮮明な視覚イメージ」を駆使できることが、絶対の条件になっている。そう でなければ、この暗記法自体が、成り立たないと言っていいだろう。 ちなみに、ここでアポロが覚えたのは、次の１５個だ。 l テニスボール 6 オオカミ 11 マーケット 2 ルーレット 7 ランプ 12 ホットドッグ 3 バス 8 巨人 13 エスカレーター 4 クッキー 9 換気扇 14 柱 5 屋根裏部屋 10 指 15 鏡 これらを、数字のイメージとそれに見合った視覚イメージをくっつけてしまう。それによっ て、逆唱もできるし、何番目を指しているイメージかもわかる。また、消去する時には、その 視覚イメージを、破壊してしまえばよい。 理屈で言ってしまえばそうなるわけだが、少なくとも、アポロ自身が、鮮明な視覚イメージ を自在に操れるタイプの人であることは、確実なことだと思う。僕には、最初から、とうてい できそうにない芸当だ。 （この項、了） |