がわたしたちみんなを驚かせたのは、ある暑い夏の一日、夫がコーン入りのアイス クリームを買ったときだった。最初にそれを一口食べたとき、夫は愛犬がじっと見 まもっているのに気づいた。そこで、どうせ残りは犬にむさぼり食われてしまうだ ろうと思いながらも、夫は愛犬にコーンをさしだした。ところが、一同がびっくり したことには、犬は夫がしたのとそっくりおなじに、コーンのアイスクリームを少 量だけうやうやしくなめとった。そこで夫がもう一口なめ、もう一度コーンをさし だすと、犬はまたすこしなめた。こうして彼らは順ぐりにアイスクリームをなめ、 やがてコーンのふちまできた。ここで夫はコーンを一口かじった。犬はそのようす を見まもっていた。残りは犬がペろりとのみこんでしまうだろうと予想した夫は、 これが最後のつもりで、犬にコーンをさしだした。ところが犬はくちびるをめくり あげ、小さな門歯をむきだしにすると、端っこをすこしだけ上品にかじりとった。 さらに二回、夫と犬とはかわるがわるコーンをかじり、最後に小さな先端だけが残 った。 信じられないって？ いや、そうとも言いきれない。八年間というもの、夫とこ の犬とは、信頼と相互の恩愛の絆をつくりあげてきた。どちらも相手にたいして不 当な要求はせず、相手を下に見たり、自分が主人顔をしたりすることもなく、たい がいはそれぞれ相手のいる前で、自分のしたいことをしてきた。 ○ …なにしろ、二頭の犬が食物を分かちあうときには、同時にひとつの皿から食べな がらも、たがいの摂食スペース、つまり、相手の口のまわりの、小さな架空の輪の 存在だけは尊重しあっているものだ。それにひきかえ、ひとつのものをかわるがわ る食べるというのは、まったく人間的な行為である。にもかかわらず、その愛犬は それをのみこんでいた。しかも、こうするのだよと教えられたことなどまったくな いのに。 で、残ったコーンの先端はだれが食べたかって？ 夫が食べた。犬はその最後の 順番を夫に譲ったのである。 ○ エリザベス・トーマスの夫が、アイスを一口ずつ食べると、犬も一口ずつ食べて返し、コー ンを一口ずつ食べると、犬も一口ずつ食べて返した。 そして、最後のコーンは、犬が主人に譲ったと言う。 確かに、この犬の行動は、十分に驚異的であるように見える。 僕は犬を飼っていないのでわからないのだが、たぶん、犬を飼っている人ならば、こういう ことはありえると、納得できるのではないだろうか。 他の動物では、こんなことはまずありえないのではないだろうか。 （この項、了） |