かっていない。彼らは、われわれの計器が検出できないほどわずかな地面の揺れを 感知するのかもしれない。地震には突然の大きな揺れではなくて、しだいに高まっ ていく揺れがあることが知られている。ネコにはそれを感知するすぐれた警戒シス テムがあるのだろうか。 第二の可能性は、彼らが、地震の前におこるらしい静電気の急激な増加に敏感で あることだ。人間でもこれらの変化に対する反応が見られる、が、それはあまりは っきりしない。私たちはこのようなとき、緊張や頭痛を訴えるが、その感じを仕事 で疲れたときや風邪をひきかけたときと区別できない。つまり、私たちはこの信号 を正確に読みとれないのだ。ネコには十分それができそうだ。 第三の説は、ネコが、地球の磁場の突然の変化にとてつもなく敏感だとするもの である。このタイプの変化には地震がつきものだ。おそらくこれら三つの反応すべ てが、すなわち微小な震動、静電気の活性、磁気的変動の検出が一度におこるので あろう。一つ確かなことは、大地震が襲う直前にネコたちがひどく動揺することが 何度もあったことである。飼い主がペットの怖れに気づいたおかげで命拾いするこ とも稀ではない。 ○ ネコが火山の噴火や激しい雷雨を予知したときにも、同じような反応が記録され ている。彼らはこの並はずれた感受性のせいで、ばかげたことに、超能力をもって いると信じられることも多かった。中世にはこれがしばしば彼らの身の破滅を招い た。「自然に反する知識」の持ち主と見られたために、多数のネコが迷信ぶかいキ リスト教徒の手で火あぶりにされたのである。今ではその知識がまったく自然なも のであることがわかっているが、ネコがふしぎな生きものであることに変わりはな い。 ○ デズモンド・モリスは、ネコに地震予知の能力があることを、ハッキリと断言している。そ れがどのような能力かは断定されていないが、れは「超能力」ではなく、ネコ自身が持ってい る能力によっている、と。 また、人間にも、同じような能力はあるのだが、人間の場合、曖昧な感じかたになってしま い、ハッキリとした「予知」とまではいかない。だが、「個人差」を想定すれば、敏感な体質 の人がいて、地震の予知が「できる人」と「できない人」がいることの、理由にはなるかもし れない。 去年、インターネットに、ネコが災害を予知した記事があった。 ○ 台風１２号による豪雨で、大量の土砂が自宅に流れ込む被害に遭った和歌山県上富 田町朝来、会社員岩本正さん（６２）は、間一髪で難を逃れた。きっかけは、一緒 に暮らす雌の黒猫「アンちゃん」の鳴き声だった。岩本さんは「命があるのはアン ちゃんのおかげ」と話している。 ４日午前２時半ごろ。掃き出し窓に接するベッドで寝ていた岩本さんは、「バリバ リ」という大きな音を網戸越しに聞いて目を覚ました。雷と思って網戸を開けると、 濁った水が前の溝を流れていた。この時、大きな音は雷ではなく、裏山の木が倒れ る音だったことに気付いた。 直後、同じベッドで寝ていたアンちゃんが「ギャー」と鳴き、部屋を飛び出した。 岩本さんは、アンちゃんがこれまでに聞いたことのない声を出したことに驚き、後 を追うように部屋を出た。 大量の土砂が流れ込んできたのは、岩本さんが立ち上がって動きだすのとほぼ同じ タイミングだった。足には泥が付いていた。ベッドを見ると、直径約１０センチ、 長さ約３メートルの倒木が横たわっていた。少しでも遅かったら…。岩本さんはぞ っとした。目を覚ましてから、わずか１分足らずの出来事だった。 ○ ただ、アンちゃんがベッドから向かった先の台所や洗面所には、土砂の流入がまっ たくなかった。反対側の客間、玄関には、窓を突き破るほどの土砂が流れ込んでい た。 ○ ネコの「アンちゃん」は、災害が起こるより数分前に、異常に気づき、行動を開始してい る。一緒に暮らしている「岩本さん」を、同族の仲間だと思っていた可能性は、十分にあるだ ろう。 「アンちゃん」は、実際に災害の起こる以前に行動を開始し、ちゃんと家の中の、被害がな かった方向に逃げている。これは、偶然とは言えないと思われる。これくらい危険察知の能力 が高い方が、自然状態では、生存の確率が上がることだろう。 ネコの能力として十分にありえることだと考えていいと、僕には思われる。 （この項、了） |