作業中の事故で右腕が満足に使えなくなってしまった。手術のあと、わたしが自分 を哀れんでばかりいたものだから、友人のシーラ・ハリスが近くの動物愛護ホーム から犬を引き取って飼ってみてはどうかと勧めてくれた。シーラには、わたしが立 ち直るにはなにかに責任をもつことが必要であるのがわかっていたのだ。純血種の 大型の雄犬なら引き取ってもかまわないと思ったのだが、いざ動物愛護ホームに行 ってみると、わたしと、この小ぶりの雑種犬とは、すぐに説明のつかない不思議な 絆で結ばれた。そして、気がついたときには、ジニーと名づけたこの犬にすっかり 首ったけになってしまった。わたしはジニーを家に連れて帰り、それからの六年間、 ずっといっしょに幸せに暮らしている。 ○ ジニーを家に連れ帰ったときには、あれほど短期間に自分の生活が根本から変わ ってしまうとは思ってもみなかった。やがてわかったことだが、ジニーは、捨てら れて家をなくした猫たちの命を救うために生まれてきたのだ。とりわけ、なんらか の障害をもった猫たちの命を。ジニーにとってそれは神聖な任務だった。ジニーは、 ある種の第六感により、どんな動物も生きのびられるとは思えないような場所から、 そうした猫たちをさがしだした。それを何度か目撃するうちに、わたしは無条件で ジニーの能力を信じるようになった。ジニーは、病気になったり、怪我をしたり、 不具になったり、虐待されたりしてなすすべもない猫たちを、再三再四見つけだし た。猫が切実に助けを求めれば求めるほど、ジニーはそれにすばやく反応した。 ジニーは、わたしがひどく渋ったにもかかわらず、ふたりだけだった家族−−ジ ニーとわたし−−をすこしずつ増やしていった。新たに加わったのはすべてジニー の救いだした猫だった。ジニーが猫たちを救いはじめたとき、わたしは猫にはきわ めて冷淡だった。じつは犬のほうがずっと好きだったのだが、やがて、ジニーに感 化されて猫たちを愛するようになった。耳の聞こえない猫、片目しかない猫、うし ろ足のない猫、脳に障害があるせいで立つことも歩くこともできずに床をころがる だけの猫。家に連れてきたときには完全な盲目だったけれど、手術のおかげで片目 だけ見えるようになった猫。障害や怪我がひどければひどいほど、ジニーはなおさ ら断固としてその猫を家に連れて帰ろうとした。そうすれば自分できちんと世話が できるからだ。 ○ フィリップ・ゴンザレスは、仕事中の事故で、右腕の機能が麻痺してしまった。ひどく落ち 込んでしまったが、たまたまジニーという犬と出会い、人生が展開した。 ジニーは、障害のある猫を救う、という能力を持っていたと言う。 人間が見つけたり、聞こえたりできないような瀕死状態や、障害のある猫からのサインが、 ジニーには聞こえるのだ。 ジニーは、二百匹以上の瀕死の猫を救っていると言う。 同時に、ジニーは、ゴンザレスも精神的な危機から救い出し、元気にしている。 子猫の鳴き声が、ジニーには、特別な「救難信号」として聞こえるのだろうか。 障害が重ければ重いほど、ジニーは家に連れて帰ろうとしたということは、障害の「重い・ 軽い」を、直感的に判断することができていることを意味している。 ジニーは、明らかに、直感的に判断し、考えて、行動しているように見える。 （この項、了） |