いてからというもの、さまざまな種類の動物がいつもそばにいた。 なかでも、彼女が一番気に入っていたのが猫だ。ひとり暮らしを始めるときも、 実家で代々飼っている猫の、四世代目の一匹だったチビを連れていくことにした。 チビは生まれたばかりだったので、山下さんを親のように慕ってなついてきた。 ひとり暮らしを始めて三年目の春のある朝、ベッドから出た山下さんは、いつも のようにワイドショーを見ていた。しばらくするとチビが部屋に入ってきて、じっ と山下さんのことを見ている。そして急に膝に飛び乗り、背を伸ばすようにして、 山下さんの右胸に爪を立てたのだ。痛さと驚きに体を弾かれるようにして、山下さ んはチビの体を押しのけた。 引っ掻かれたところを見ると、血が流れだしている。血を止めようとタオルを当 てたとき、山下さんはそこにしこりができているのを感じた。押しても痛みは感じ なかったが、心配になった彼女は、その日のうちに痛院で診察してもらうことにし た。 胸の細胞を採取して詳しい検査を行ったところ、しこりの正体がガン細胞である ことがわかった。発見が早かったために、手術を行えばきれいに取り去ることがで きるということだったが、気がつかなければ大変なことになっていた。 チビは山下さんの体に異常を感じ、それを知らせたのだ。チビに引っ掻かれなけ れば、山下さんは命まで危険にさらされていたかもしれない。 ○ 猫も、とても不思議な能力を持っている。 チビが胸を傷つけたのは、偶然なのだろうか？ 犬には、がんを発見する能力（嗅覚）があると言われている。 猫にあるとは言われていないが、まったくないとは言い切れないだろう。 （この項、了） |