二〇〇六年十月十二日、ニューヨーク州北部では、夜間に猛吹雪が吹き荒れまし

　た。しかし昼間は秋晴れで天気が良かったため、夫婦はこのような悪天候になると

　は予測していませんでした。いつものように、施設に餌やりをしに来た夫婦でした

　が、軽装で来てしまいました。作業中に、突然電気が落ちて暗くなったので、何か

　がおかしいと気づいたときにはすでに遅く、外では強風が吹き荒れていました。庭

　にあった大木が強風でなぎ倒され、このため停電がおこったのでした。また、ほん

　の数時間の間に雪がものすごい勢いで積もっていました。

　　倒れた大木と積もった雪で、夫婦は施設内にある動物病院と鳥小屋の間をつなぐ

　狭い路地に、閉じ込められた状態になってしまいました。六十メートル少し先の自

　宅に戻れないばかりか、施設内の他のビルにさえも移動できそうにありません。仕

　方なく、二人で身を寄せ合って路地に座り込みました。イブは恐怖のあまり夫のノ

　ーマンに向かって、「私たち、死んでしまうのかもしれないわ」と口にしました。

　　夜九時半を過ぎたあたりから、気温が急激に落ちてきました。お互いの体温で体

　を温めてはいるものの、それでも凍えてしまいそうです。

　　そんなとき、夫婦の近くでウロウロしていたシャーナが突然、思い立ったように

　倒れた木の下の雪に穴を掘り始めました。シャーナは歯と爪を使って、まるで坑道

　のようなトンネルを雪の中に作りました。結局、十一時半までかかり、六十メート

　ル先にあるファーティグ家の自宅までトンネルをつなぎました。するとシャーナは

　まるで「付いて来い」と言わんばかりに、夫婦に向かって吠えました。

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　　シャーナは、イブのジャケットの袖をくわえて引っ張ると、イブを自分の背中に

　乗せました。体重わずか四十キログラムほどのイブは、シャーナの広い背中に乗り、

　がっしりした首に手を回しました。やはりオオカミの血が入っているからか、シャ

　ーナはジャーマン・シェパードそのものの顔をしてはいますが、肩幅の頑丈さはオ

　オカミのそれのようでした。

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　　ドアを開けて家の中に入ると、イブとノーマンはその場に倒れ込むようにして眠

　りにつきました。電気が通っていない家は凍えるような寒さでしたが、シャーナが

　二人の上に覆い被さるようにして、毛布の代わりをしてくれました。

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　　そう言うと、ファーティグ夫妻はシャーナと自宅に残りました。消防署へ避難で

　きるまでの三日間、ファーティグ家の自宅は相変わらず電気も水道も通っていない

　状態でしたが、シャーナがずっと、年老いた二人を温めてくれました。

　　三日後に、ようやく消防署から誰もいなくなり、夫婦とシャーナが避難できるよ

　うになりました。それまで毎日、消防隊員が夫婦とシャーナの食事と水を運んでく

　れました。また、庭で倒れている大木の処理もしてくれました。シャーナが掘った

　穴を見て、消防隊員たちは、「こんなの見たことない」と驚いていました。

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　シャーナは、ジャーマン・シェパードとオオカミと混血の犬。

　ファーティグ夫妻は、突然の吹雪に閉じ込められ、家に帰れなくなってしまった。

　このままでは死ぬかもしれないと思っていた時、シャーナが、雪にトンネルを掘り始めた。

　シャーナは、六十メートルの雪のトンネルを掘り、妻のイブを背中にかついで、夫妻を家ま

で連れて帰ったと言う。

　どうして、こんなことが可能なのだろう。

　シャーナは、ファーティグ夫妻が危機に陥っていることを知り、夫妻は家に帰ろうとしてる

ことを感知し、そのためには、塞いでいる雪にトンネルを掘って帰る、という判断したことに

なる。

　すごい能力だ。

　シャーナが「計画」を立てた、というのではなく、少なくとも「直感で考える能力」がない

と、この行動は取れないに違いない。

　消防隊員たちは、シャーナの雪のトンネルを見て、「こんなのは見たことがない」と言った

そうだが、『犬たちの隠された生活』（エリザベス・Ｍ・トーマス）には、犬が土を掘ってト

ンネルを作るエピソードが出て来るから、能力的にはできることだろう。

　（この項、了）