「アネラさんには、犬の言葉はどんなふうに伝わってくるんですか？」

　　これは、よく聞かれることのひとつです。

　　説明するのはとてもむずかしいけれど、犬の心にそっと寄り添って意識を集中す

　ると、じわっとイメージが伝わってくる……という感じでしょうか。

　　犬たちが伝えてくるものは言葉だけとは限らず、色やイメージ、におい、あるい

　は音声、触感、という場合もあります。言語も、日本語のこともあれば英語のこと

　もあって、なんでもアリなのです。

　　　　　　　　　○

　　その日のお客様は、ハワイに住む友だちから噂を聞いて来てくれたという東京在

　住の女性です。スマートフォンの画面を見ると、赤いリボンをつけたトイプードル

　のクーちゃんがお行儀よく座っています。

　　クーちゃん、はじめまして。よろしくね。

　　わたしは心のなかで話しかけました。

　「アネラさん、聞いてください。この子ったら、わたしの運転中に邪魔をして吠え

　るので困っているんです」

　　普段はとてもおとなしい女の子なのに、家が近づいてくると興奮してしまうとい

　うのです。

　「家に帰ってきたのがうれしいのねと思うには、ちょっと吠えすぎだと思うんです。

　車庫入れするのに気が散っちゃって」

　　と飼い主さん。その口ぶりは、どうにも納得がいかないという様子です。

　「わかリました。さっそく聞いてみましょうね」

　　まずは、画像のクーちゃんと視線を合わせます。すると最初に、茶色っぽい箱が

　たくさん積み上げられている画像を見せてくれました。

　　犬たちが伝えてくるのは言葉のこともあれば、このように映像だったりと、犬に

　よって方法がちがいます。

　「茶色い箱がたくさん見えるんですが……」

　　そうお伝えすると飼い主さんは、

　「えっ、なんでわかるんですか？」

　　と、びっくりしたように言いました。

　「駐車場の奥に、商品在庫の段ボールがたくさん積んであります。まさかアネラさ

　ん、うちに来たことあるんですか？」

　　いいえ、もちろんわたしはなにも知りません。ただ　「通訳」として、犬が見せ

　てくれたシーンをそのまま伝えているだけなのです。

　　わたしは、どうしてそんなに吠えるの？　とクーちゃんに聞いてみました。

　（またぶつけないように気をつけて、と言っているのよ）

　　どうやら、飼い主さんのことを心配しているようです。

　「クーちゃんは、気をつけてねという意味で吠えているみたいです。前に車をぶつ

　けたときに、ママがすごく落ち込んでいたからって」

　　愛犬の言葉を伝えたとたん、飼い主さんはピンと来たようです。

　　確かに数か月前、段ボールをよけようとして車を車庫の壁にこすってしまったの

　です。修理代が相当かかったそうで、それ以来、苦手な車庫入れのたびにかなり神

　経質になっていることを教えてくれました。

　「でもどうしてそんなこと、クーが知っているの？」

　　飼い主さんの目に、みるみる涙が浮かんできます。

　　犬には人の心を読み取るセンサーのようなものがあり、飼い主の波動のようなも

　のを察知しているのではないかとわたしは思っています。

　　　　　　　　　○

　アネラさんは、犬の気持ちがわかる。直接見ていなくても、画像を見ているだけでも、可能

だと言う。これは以前読んだことのあるアニマルコミュニケーターのハイジも、同じことを言

っていたと思う。

　どうしてこんなことが可能なのか、僕にはまったくわからないと言う他はないし、科学的に

確認など取りようもないことだが、興味深いことには変わりがない。

　犬の画像を見て意識を集中させると、イメージが伝わってくる。

　アネラさんによれば、それは、言葉だけではなく、色やイメージ、におい、音声、触感、な

どの場合もある。また、日本語のこともあれば英語のこともある、らしい。

　どのような感覚を取るにせよ、少なくとも、初源のイメージがあって、それが五感や言葉へ

と変換されて伝わってくる、ということになりそうだ。

　（この項、了）