ある女子高校生は、家庭の経済状態は中流の上くらい、両親は健在でよそ目には何

　の不自由もなく、中学生のときに級でも上位の生徒で、むしろ優秀な生徒とみられて

　いたが、高校生になってから異性との交友関係が急に乱れはじめ、不特定多数の相手

　と性関係をもつようになった。そこで、担任教師が呼び出して指導しようとすると、

　自分のしていることのどこが悪いのかと逆に抗議をしてくるのである。自分は自分の

　意志で楽しんでしていることであり、相手もそれを喜んでいる、そして、そのために

　誰も苦しんでいる人がいるわけではない。どうしてそれが悪いことであるのか、とい

　うのである。この生徒は知的にも高いので、いうことがなかなか鋭く、担任も少した

　じたじとしていると、ますます追い打ちをかけてきて、自分の行為がどうして「不純

　異性交遊」なのか、不純といわれる理由を説明してほしいという。愛し合っているも

　のが性関係をもつのは当然であり、自分はそれを行っているので、何ら不純なことは

　ない。むしろ、不純なのは大人であって、「愛し合ってもいないのに、夫婦だからと

　いって性関係をもつのこそ不純ではありませんか」と彼女の舌鋒は火を吹かんばかり

　である。これには、担任教師も簡単には答えられず、絶句してしまった。

　　彼女のいっていることは確かに一理あることだ。それに彼女が最後にいったことな

　ど、現代の日本の多くの夫婦に対する批判として、むしろ当を得たものといってよい

　かも知れない。さて、このような手強い女子高校生が筆者のところに連れて来られた。

　いろいろと彼女のいうところに耳を傾けた後で、私は彼女に、「あなたのしているこ

　とは、悪いことだから止めなさい。それがなぜ悪いかなどというのではなく、理屈抜

　きで悪いから駄目です」と厳しくいった。有難いことに、彼女は私のまったく無茶な

　指示に従ってくれた。あれほど鋭く論理的に舌戦をいどんできた彼女が、私のまった

　く非論理的な指示にあっさりと従ってくれたのである。

　　当然のことだが、ここに述べたのはうまくいった一例についてであり、これが不純

　異性交遊に対するおきまりの「よい指導性」などというのではない。こんなことをい

　ってみても一笑に付されることもあるだろう。そもそも、このような言葉が私の口に

　のぼってきたというところに、この高校生のもつ自己治癒の力の表われがあったとい

　うべきだろう。指導が「うまくゆく」ときは、指導される側に「とき」が熟している

　ことが必須の条件なのである。

　　　　　　　　　　〇

　「異性交遊」の生徒がいるとして、その中で、何をもって「不純」と言うのか、本当は僕には

よくわかっていない。

　定時制高校にいた頃、ほぼ毎年くらいの間隔で、女子生徒の「妊娠」があった。それに対し

て、僕自身がうまく対応できていたとは言い難い。おそらく、河合隼雄のように言っても、たぶ

ん通じなかっただろうと思う。ケースとしては、お互いに好き合って、妊娠した場合もあるし、

時々は、そうでない場合もあった。「そうでないケース」でも、男子生徒に指導はするが、どう

していけないことなのか、を理解させることは難しかった。

　また、情緒不安定な女の子が、妊娠して、子育てをすると、とても情緒が安定したりする。子

育ての不思議さに、感銘を受けることが多い。学校で授業を受けるよりも、遥かにたくさんのも

のを、母親になって、感じ取っているのだと思う。

　また、河合隼雄の「指導が「うまくゆく」ときは、指導される側に「とき」が熟している

ことが必須の条件なのである。」というのは、全くその通りだと思う。

　もっと言えば、指導する側・される側との間の人間関係が、「とき」を熟している関係にな

っていることが、大切だ。関係ができていないのに、「道徳的」「倫理的」に、教師が一方的に

言っても、「お説教」としか取られなくて、効果はないと思える。　

　（この項、了）