「神田橋條冶」を読む。


77・「麻の実ナッツ」

  白柳 そうでしたか。ところで少し脱線しますけど、麻の実ナッツはおもしろいで

    すね。

 神田橋 麻の実ナッツは、ある優れた東大卒の発達障害の人が偶然に発見したの。「

    先生、これ食べると、私の脳が良いですよ」とその人から聞いて、ボクが他の

    患者さんたちに試してみたら、たしかに発達障害の人に良いようだった。それ

    で、「ボクがこのアイデアもらうよ」と言って。

  白柳 先生にご紹介いただいて整体に来られていたお客さんですが、発達障害があ

    って、予約の電話では毎回、丁寧な自己紹介をされるのです。決まった言い回

    しがあって、それが済まないと本題には入られません。それを承知で私は、声

    をお聞きしたらすぐに「あ、ナントカさんですね」と返していたのですが、最

    初の内は、私が割り込んでも自己紹介が続いていた。それが「麻の実ナッツを

    食べ始めました」とお聞きしてしばらく経った頃から、こちらが割り込むとさ

    っと自己紹介を切り上げて「白柳先生ですか」とこちらに合わせてくださるよ

    うになった。おお、柔軟性が出ている、と嬉しかったです。

 神田橋 ずーっと一本調子だったのが、パッと転換できるようになる。「脳が発育し

    てきたら、その転換ができるようになりますよ」と言っておけば、一、二ヵ月

    後にそんな変化が出てきたときに発達障害の人は喜ぶよ。

  白柳 ああ、それは私は言えなかったですね。予測もしていませんでした。

 神田橋 ボクはこう言う。「テレビを見ているときにお家の人が話しかけてきても「

    やめて!」と言わなくて済むようになりますよ」。

  白柳 それは良いですね。同時処理ができるようになるのでしようね。

(『心と身体といのちのこと』 神田橋條治・白柳直子)

            〇

 朝の実ナッツを食べると、発達障害の人には効果があるとは!

 世は「エビデンス」全盛だが、実際に発達障害の人が食べての感想なのだから、それでいいと

思う。

 僕が知っている自閉の子は、話と途中を切ることができなかった。話の途中で止めさせられる

と、途中から始めるのではなく、最初からでないと話すことができない。それは強固で、変える

ことは、なかなかできないと思う。

 それが、「麻の実ナッツ」を食べてしばらくすると、柔軟性が出てきたと言う。

 もちろん、こういうことはあってもおかしくないだろう。

 発達障害の脳は、必ず、日々、発達しているわけだから、それを助ける食べ物があっても、別

に不思議ではない。

 (この項、了)

 

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