神田橋　これね、これはちょっと言っておきたい。

　　　土居（土居健郎）先生が若いころにね、精神分析で「なんでも包み隠さず話しな

　　　さい」というふうに言うのは、これは告白をさせるためではなくて、包み隠さず

　　　話すようにすると、つまりこの人だと「実は……」だよね、そうすると忘れてい

　　　たことを思い出しやすくなるからだと。忘れていたことを思い出すことが治療に

　　　なるんだと。

　　　「なんでも包み隠さず話す」ことで、抑えて思い出さなくする働きを緩めていく。

　　　その力を緩めていく。そして「そう言えば、こんなことを思い出した」という、

　　　そこが治療になるからなんだという論を何かに書いておられた。おそらく出版物

　　　にはならずに、精神分析を習う人たちのためのガリ版刷りのパンフレットか何か

　　　になっていて、僕はそれをもらったことがある。

　　　　　　　　　　〇

　「忘れていたことを思い出すと治療になる」は、いい言葉だと思った。

　「忘れていたことを思い出す」とは、忘れていたことを思い出して、言葉化することができた

ということだ。

　モヤモヤしていた思いを、言葉化できることは、心が安心することだ。

　言葉化することが、情緒の安定を促したのだ。

　（この項、了）