○ 父が杉の木を切り倒すのを、じっと見ていたのを覚えている。その木で、大きな 丸木舟をつくろうとしていたんだ。父は木に深い敬意を捧げながら作業を進めてい た。その木に話しかけるんだ。まるで人間の仲間としゃべっているようにね。 「どうか俺に怪我なんかさせないでくれ。あんたを役に立つ立派な乗り物に変えよ うとしているんだから」と。 ピーター・ウェブスター（アヒューサート族）一九八三年 ○ 西洋の教育を受けた聴衆の皆さんにとって、「樹木に魂が宿っている」という考 えは、信じがたく、理解しがたいことでしょう。……万物は、生きているのです。 木と話しているネイティヴ・アメリカンを見かけたとしても、その人が精神的にお かしいというわけではありません。それどころか、まさにその人は研究に没頭して いる科学者なのです。 パム・コロラド博士（オナイダ族）一九八九年 ○ インディアンは、木に深い敬意を持って接している。丸木船を作ろうとするときには、まる で人間の仲間と話すように木に話しかけていた。 確かに、こういう精神の世界は、西洋的な精神では、非科学的で認められないに違いない。 最近読んだ、紡木たくのマンガ『マイガーデナー』に、こんな話がのっていた。 ○ おじいちゃんのぶどう園には 1本の優しいぶどうの木が あるんだ その木は昔 一度 切り倒されたことがあるの ぶどう園の外から 急に車がつっこんできて その木にぶつかって その時 車に積んでた薬が木に いっぱいかかって 木は傷だらけになったん だって 生きていけないくらい 傷だらけになったんだって でも車に乗ってた人たちは 誰もケガしなかったの 木が その人たちを 守ったから 木だけ傷ついたの 若かったおじいちゃんは 泣きながらその痛んだ木を 切り倒したんだって 自分の命で 人の暴走をとめたぶどうの木 木だけ傷ついて その木は死んじゃったの だけど その切り株から 新しく芽が出てきたんだよ それが この木 新しい 木 車は 今もそのまんまになっていて おじいちゃんたちはいつも ここでごはん食べたり お茶をのんだりしてるんだ 笑いながら さなはここが好きだった その木のところ さなの居場所 逃げ場所だったんだ 命の木のとこ ○ 紡木たくの言葉に流れている感性は、インディアンの自然の木への感性や精神と変わらない と言っていいのではないだろうか。今でも、インディアン的な感性や精神は、日本でも息づい ているのだ。 （この項、了） |