ユングはインディアンの長老に「きみはどうして白人が麻痺していると言うのかね」

　と尋ねました。すると、長老は「白人は頭で考えると言っている」と答えたそうです。

　　驚いたユングが「もちろんそうだ。きみたちインディアンは何で考えるのかね」と

　反問したところ、長老は「わしらは、ここで考える」と、自分の胸を指差したのです。

　　ユングは、自伝の中で「このインディアンはわれわれの弱点を衝き、我々に見えな

　くなっている真実を明らかにしてくれた」と語っています。

　　想い返してみれば、現代の私達は何事も「思考」で考えます。思考はその時代の価

　値観や常識に色濃く影響を受けます。だからこそ、この長老の指摘は、いまいっそう

　の重みをもって私たちの胸に迫ってきます。

　　　　　　　　　　〇

　インディアンの長老は、「白人は麻痺している」と言い、ユングがどうしてそう言えるの

か尋ねると、「頭で考え」ているからだと答えた。

　驚いたユングが木たちはどこで考えるのか、と尋ねると、自分の胸を指さした。

　ユングは、その答えに衝撃を受けたのだと言う。

　ユングがインディアンの長老にあって、衝撃を受けたという話は、河合隼雄もどこかで書いて

いるので、相当有名なことらしい。

　確かに、このインディアンの長老の言っていることは、素晴らしい。

　「人間は頭で考えている」と、現代の人間は先験的に思い込んでいるが、だがそれは麻痺した

考え方に過ぎないのだ、と。

　ユングは、その意味を即座に理解したに違いない。

　インディアンの「胸で考えている」ということは、人間は「感覚で考える」のだ、というこ

とを示唆していると思う。昔の日本人なら、「腹」を指指しただろう。

　いずれにしても、ユングの時代よりも、さらに現代の人間は「頭」で考え過ぎるようになって

いると思う。

（この項、了）