（※インディアンの老女ウィノナの死の場面）

　　一瞬ルーシーは戸惑っていた。パイプはどこか彼女にそぐわなかった。それでも気

　を取り直して、まずは何を言おうかと必死に言葉を探していた。「先週母は言いまし

　た−−スピリットたちが彼女のもとにやって来て、こちらの準備はできたから、一緒

　に来てもいいと言った、と」ルーシーの目から涙がぽろぽろ落ちて、助けを求めるよ

　うにホークを見た。だがホークは、大丈夫だから続けるようにとうなずいただけだっ

　た。

　　ルーシーは続けた。「先週の土曜日でした。真夜中近かったと思います。母は私に、

　ずっといい母親でいることができなくてすまなかった、でも、お前を愛していると言

　ったのです。それから子供たちには、いつも年寄りを敬い、インディアンであること

　に誇りを持つようにと言いました。この数か月、一緒にいてとても楽しかったとも。

　母は、遺書がどこにあるか教え、お棺はできるだけ安いのを頼むようにと……」ルー

　シーは静かに泣きだした。「そうすれば、早くグランドマザーのもとに行かれるから

　って」

　　みんな、ルーシーが何とか涙を押さえるのを待っていた。「私は、母は頭がおかし

　いのだと思いました。だって、悪いところなどどこもなかったのですから。母の手を

　取って脈を計ってみましたが、しっかりしていました。私はほっとしました。母はに

　っこり笑いました。私が、母が行ってしまうことを信じてなどいないのを知っていた

　のでしょう。母は、戦士の女が迎えに来て、部屋の隅に立っていると言いました」ル

　ーシーはテレビの置いてあるあたりを指さした。「母は本当に嬉しいそうでした。戦

　士の女が、母が支度ができるのを待ってくれていると。だから、私は母の手首を放さ

　ず、ずっと脈を取りつづけていました。母に触れていることで、こちらに引き止めて

　おけると思ったのかもしれません、よくは分かりませんが。母が目を閉じました。そ

　れはそれは穏やかな顔でした。それから、にやっと笑ったのです。心臓がトクン、ト

　クン、トクンと脈打っていました。とても力強く、安定しています。それが十五分か

　二十分続きました。私たちは息を殺して、母が目を開けるのを待っていました。私は

　母の手首から手を放しませんでした。そして、とうとう母の脈が……。心臓が止まっ

　たのです。脈はもうありません。そのとき初めて、母が私たちから去っていったこと

　を知りました」ルーシーの頬に涙がとめどもなく流れ落ちた。ホークが近づいて、そ

　っと彼女の手からパイプを取り上げた。

　　　　　　　　○

　ウィノナは、数週間も前から、自分の死を「予言」していた。時が来たら「死ぬ」のだ、と。

　最後の瞬間、「戦士の女」が迎えに来ている、と言っていた。

　特に病気をしていたわけでもなく、心臓も元気に打っていた。

　だが、穏やかな顔のまま、愛する娘に看取られながら、亡くなってしまった。

　まるで、「今の生」を終えたから、「次の生」へと向かうように……。

　まさに、「今日は死ぬのに持って来いの日」としての死に方だ。

　現代の僕には、まったくわからないとしか言いようがないのだが、こういう記述を見ると、ひ

ょっとすると昔の人は、本当にこんな死に方ができたのかもしれない、と思われてくる。

（この項、了）